高知論叢108号

高知論叢108号 page 66/136

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64 高知論叢 第108号(エ)第一及び第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決の論証分析すでにみたように,第一及び第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決で問題になっていたのは立地の地震リスクである。上で挙げた考察から,....

64 高知論叢 第108号(エ)第一及び第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決の論証分析すでにみたように,第一及び第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決で問題になっていたのは立地の地震リスクである。上で挙げた考察から,地震リスク(Z)は大枠判断の項目であるので,これが実践理性によって排除されなければ,災害の蓋然性(Y)もまた排除されない,との実体判断(Z→Y)が前提となる48。したがって,行政が行う地震リスクの否定(¬ Z)論証の追試が裁判所の課題となる。地震リスクの否定論証は予測される揺れ(W)と地盤のズレ(V)を前提に,施設の位置と耐震構造(b)によって行われる ただし,これが一回の許可で行われるか否かはここでは問題にしない。これをヘンぺル・オッペンハイムモデルを使って単純化すれば,bの正当性は,説明項に1)地震動応力の計算式及び地質と地盤のズレに関する一般的法則・推測,及び2)当該敷地での地震強度及び地質状況から,被説明項である3)予測されるW及びVを導き出すことで行われる。さて,第一ミュルハイム・ケルリッヒ判決は,リスクが現実に存在するか否かについては実体判断はしない,と述べた上で,申請対象であるオリジナルプランは地質調査がなされていないまま許可が出されている点に,調査欠落を見出している。これを上のヘンぺル・オッペンハイムモデルで考えると,被説明項Vを正当化するための法則,及び初期条件の一部欠落ということになる。すなわち,被説明項である施設の位置と耐震構造(b)を正当化するために,ヘンぺル・オッペンハイムモデル上必要となる論証「形式」の非充足=欠落が調査欠落とされたのである。ここには法則の否定や事実認定の否定といった裁判所による実体判断はない。判決が「不明のままにしている」(ungeklartbleiben)という時49,これは論証形式上必要となる項目の欠如を意味しているといえよう。これに対して,第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決では少し事情が異なる。ここでは行政は地震の調査と地質の調査は行っている。しかし,調査結果であ48 しかし,実際には連邦行政裁判所は調査欠落の認定と災害の蓋然性との論理関係を認めていない。BVerwGE 106, 115(127-128).49 BVerwGE 80, 207(216-217).