高知論叢108号

高知論叢108号 page 67/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察65る地震強度レベル8 の認定自体が不確定な幅からの選択であり,地震強度レベル8 に対応する表面最大加速度値もまた幅をもっていた。こうした二重の不確かさを行政はど....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察65る地震強度レベル8 の認定自体が不確定な幅からの選択であり,地震強度レベル8 に対応する表面最大加速度値もまた幅をもっていた。こうした二重の不確かさを行政はどのように処理したかを不明にしたまま,表面最大加速度の確定を行った。これが調査欠落とされたのである。したがって,ヘンぺル・オッペンハイムモデルにおける法則の項,及び初期条件の2項は充足されている。その限りでこのレベルでの論証形式の欠落はない。むしろ,初期条件である地震強度の認定問題を争っているので,裁判所は禁止される実体判断代置をしているようにも見える。ヘンぺル・オッペンハイムモデルによって,被説明項を正当化できるのは,法則により初期条件が特定の帰結を導き出す場合である。しかし,地震強度と表面最大加速度値は確定的な数値を導き出さない。加えて,行政は地震強度の確定は不確実な幅からの選択であることを知っていながら,これを示さず,ただ確定された表面最大加速度値に政策的な余裕設計分を加味して正当化を図った。これはたしかに,概ねもっともらしい4 4 4 4 4 4 4 4 4 説明かもしれないが,事実の確定をしっかり行わないで,途中から政策的な判断で逃げたとの印象を裁判所に与えても仕方がなかったのではなかろうか50。この第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決は論証過程という点からみると,二つの点を示唆しているようにみえる。一つ目は法則による論証が確定的に被説明項を導き出さない場合には,行政は誠実にこれを認め,選択・確定のための追加論証を行うことを要するとした点,二つ目は裁判所は,行政の論証をリスク調査部分とリスク評価部分に一応をわけ,前者,すなわち数値確定の前提となる行政のデータ収集のあり方に関してはしっかりとした事実認定を行う,とした点である。これをまとめると,行政はヘンぺル・オッペンハイムモデルの論証に加えて,1)尊重すべき資料や見解は全て収集したことを示し,2)見解の相違がある場合には,そこから帰結する様々な数値の幅があることをまず明示し,保守性要求から3)もしその中から保守的な数値を選択しない場合には,その理由づけ,例えば予算による制限や工学的な余裕の理由づけ等が必要にな50 BVerwGE 106, 115(125-126).