高知論叢108号

高知論叢108号 page 69/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察67この部分は,実際に起きたナトリウ漏えい事故の経験から,当事者及び裁判官の論理がもっとも見えやすい形を有しているからである。本件は内閣総理大臣が動力炉・核燃....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察67この部分は,実際に起きたナトリウ漏えい事故の経験から,当事者及び裁判官の論理がもっとも見えやすい形を有しているからである。本件は内閣総理大臣が動力炉・核燃料開発事業団に与えた高速増殖炉もんじゅの設置許可に対して,周辺住民である原告らがその許可の無効を主張して始まった一連の裁判の一つである 後に事業者は組織変更から核燃料サイクル開発機構となり,許可主体は省庁改革から経済産業大臣となっている。まず,原告適格をめぐる裁判で平成4年,最高裁が原告適格を確認した後に,差戻し後の本案審議において,平成12年福井地裁は原告の請求を棄却した。その後の控訴審で許可の無効が確認されたのが本稿の扱うもんじゅ差戻後控訴審判決である。この高裁判決はその後,最高裁で破棄され原告の請求は棄却されている。なお,福井地裁での本案判決前の平成7年12月にもんじゅでのナトリウム漏えい事故が起きている。さて,「2次冷却材漏えい事故対策」を巡る争点は,上で挙げた伊方原発最高裁基準である安全性審査における看過しがたい過誤欠落の有無が問われた部分であるが52,判決はこのナトリウム漏れ事故対策の安全性判断に入る前に,二つの法律上の前提問題をクリアする必要に迫られている。一つは基本設計の問題であり,もう一つは無効確認訴訟が取消訴訟よりも実質的に司法審査密度を下げているという点である。まず,基本設計問題については原子炉設置許可の段階での安全審査の対象はベーシックな基本設計事項に限られるという見解から,如何にナトリウム漏れ事故対策が基本設計事項に属するのか,を論じる必要があった。この点につき,判決は運転実績が乏しく,技術,知見ともに不48頁以下,山下竜一「行政法理論における原発訴訟の意義 もんじゅ訴訟差戻控訴審判決を素材ににして」ジュリスト1251号(2003)82頁以下,中川丈久「もんじゅ事件差戻後控訴審判決 原子炉設置許可無効確認訴訟の本案審理」環境法判例百選〔別冊ジュリスト171号〕(2004)202頁以下,交告尚史「「もんじゅ」行政訴訟差戻後控訴審判決」平成15年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1269号〕(2004)41頁以下,藤原淳一郎「高速増殖炉「もんじゅ」の設置許可に違法があるとはいえないとされた事例」判例評論571号(2006)184頁以下,亘理格「原子炉安全審査の裁量統制論 福島第1原発事故から顧みて」論究ジュリスト3 号(2012)26頁以下。52 なお,判決ではこの他に立地の地震リスク,蒸気発生器細管破断,炉心崩壊問題が争われている。