高知論叢108号

高知論叢108号 page 7/136

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性転換手術と刑法に関する一考察5上記②における被告人側主張は,人間が性的欲求の満足を追求する自由は,憲法にいう基本的人権特に自由および幸福追求に関する国民の権利の一内容として人間の本能に根ざす根源的な....

性転換手術と刑法に関する一考察5上記②における被告人側主張は,人間が性的欲求の満足を追求する自由は,憲法にいう基本的人権特に自由および幸福追求に関する国民の権利の一内容として人間の本能に根ざす根源的なものであり,公共の福祉に反さない限り,みだりに抑圧もしくは制限されてはならないことは自明の理であるが,優生保護法第28条において同法による場合の外生殖が不能になる手術を全面的に禁止しているのは人間の性的本能を満足させる方法を国民から奪うことになり,国民の幸福追求の権利を否定するものである。仮に,優生保護法第28条が一般的には憲法違反でないとしても,本件手術を同条に反するものとすることは,同条の解釈適用において,本件被手術者のごとき性転向症者の幸福追求の権利を完全に抹殺することを意味し,憲法第11条,第13条に抵触するというべきである,というものである。上記③における被告人側主張は,優生保護法第28条が禁止の対象としている「手術」とは同法所定の手術,すなわち「優生手術」と「人工妊娠中絶」を指すもので第28条はこの二つの手術にのみ関する技術的制限規定にすぎないと解すべきであり,本件の手術は性転換手術の一環としての治療的医学的去勢であり,そもそも第28条の対象とはなり得ず,また,生殖不能の結果が付随的に発生したにしても,目的そのものは「生殖を不能にすることを目的」としていないのであるから本件手術は第28条に該当しない,というものである。上記④における被告人側主張は,被告人は本件手術を正当な医療業務に属すると信じ,産婦人科医としての豊富な経験を基礎に他の外科医など立会いのうえ手術を行ったのであるから,全く犯意はなかったものであり,少なくとも被告人が本件手術を違法でないと信じた点に過失はなく故意を阻却する,というものである。ⅱ 第1 審裁判所の事実判断これに対し第1 審の東京地判昭和44年2 月15日は,以下の通り被告人側の主張を退けている。まず,被告人側の上記①における正当な医療行為であるとの主張に対しては,手術を受けた3 名には,睾丸全摘出手術が医学上当然の治療行為として従来一般に承認されてきた疾病が存在しておらず,また3 名とも生