高知論叢108号

高知論叢108号 page 70/136

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68 高知論叢 第108号十分な原子炉の場合には,審査すべき「基本設計の安全性にかかわる事項」は広範囲に渡る,と理由づけている。もう一つの点は行政行為が無効とされるのは,「重大かつ明白な瑕疵」がある場合に限....

68 高知論叢 第108号十分な原子炉の場合には,審査すべき「基本設計の安全性にかかわる事項」は広範囲に渡る,と理由づけている。もう一つの点は行政行為が無効とされるのは,「重大かつ明白な瑕疵」がある場合に限定され,司法による詳細な審査に歯止めをかけている点である。この点につき,判決は,まず,違法の明白性は,特段な事情がある場合には,無効要件として必ずしも必要としないという無効要件緩和の法理を述べた上で,当該事例ではこうした例外的事情があるとしている。すなわち,原子炉設置許可処分では人間の生命,身体,健康,そして環境という重大な利益の侵害が問題になっており,これは処分無効の判断で害されるであろう行政処分の法的安定性という価値よりも重要度が高い。したがって,原子炉設置許可処分の無効要件は,違法(瑕疵)の重大性をもって足り,明白性の要件は不要である,と。次に「瑕疵の重大性」について。判決によれば,瑕疵が重大であるのは,それが安全審査の根幹にかかわり,それによって放射性物質が環境に放散されるような事態の発生の具体的危険性を否定できない時,としている。こうした瑕疵が問題になるポイントの一つが2次冷却材漏えい事故対策の安全審査である。要点はこうである。2次主冷却系設備は炉心で発生する崩壊熱を1次冷却材から受け取る役割をもっている。したがって,2次冷却材漏えいなど事故により,2次主冷却系設備が機能不全に陥れば,炉心の熱を吸収した1次冷却材は,その熱を放出することができず,沸騰して冷却能力を失い,原子炉が溶融,暴走するなどの重大事故に発展する危険性がある。ここから,2次冷却材漏えい事故対策は重大な瑕疵が問題となる項目となる。このことは,2次冷却材漏えい事故が安全審査指針(「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」及び「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針について」)で設計基準事故に選定されていることからも裏づけられる。それではこの安全審査のどこに看過しがたい過誤欠落があるとみたのだろうか。2次冷却材として使われるナトリウムの漏えい事故対策のうち,まず漏えい防止対策として配管の余裕設計,保守点検等がある。また漏えいしてしまった際の高温ナトリウムによる熱的影響等による事故拡大に対する防止策の一つとして床面に鋼製のライナを設置する対策がなされている。ところが,この床