高知論叢108号

高知論叢108号 page 71/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察69ライナー設置を含め事業者が行った対策の基礎になる解析や知見には不十分な点が多く,これを見過ごした安全審査は瑕疵がある。そしてこの瑕疵はその帰結が2次主冷却....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察69ライナー設置を含め事業者が行った対策の基礎になる解析や知見には不十分な点が多く,これを見過ごした安全審査は瑕疵がある。そしてこの瑕疵はその帰結が2次主冷却系の全冷却能力の喪失,そして炉心溶融,ひいては放射性物質の外部環境への放散の可能性を否定できない点で看過し難い過誤,欠落である。以上が概要であるが,下では4で行った予測概念の具体化及び論証形式という視点から,もう少し詳細に,そして学説も踏まえてこれを分析していきたい。なお,その際,無効確認と取消の違いである瑕疵の重大性要件については,あえて触れないようにする。その理由は,学説も指摘しているとおり53,この問題は処分後の新知見に対応する行政の責務・権限を,そしてこれに対する訴訟類型を完備する立法があれば,おのずから解決する法技術論に属する問題であり,この議論に深入りすることはかえって判断過程の過誤欠落問題の本質を見失わせるおそれがあるからである。(ア)判決「総論」と大枠判断まず,判決を予測概念の具体化という視点からみると,高裁はこれをほぼその「総論」部分で手がけている。「予測される害悪」として判決が挙げているのが,「人間の生命,身体,健康,そして環境が脅威にさらされる放射性物質が周辺の環境に放出される事態」(Y)である。そしてこれが起こるシナリオとして,原子炉本体又はその容器の工学的設計に不備があるか,若しくは,何らかの要因(外乱)によってそのような事態が生じる場合,と指針に沿って具体化を始めている。このシナリオは特に「高速増殖炉の安全性の評価の考え方について」で挙げられている各種の異常事象や事故のことであるが,当事者主義のもとで争点として,地震リスク,2次冷却材漏えい事故,蒸気発生器伝熱管破損事故,炉心崩壊事故が審議されることになる 事業者の技術的能力については5号要件なので省く。問題となる2次冷却材漏えい事故(Z)についていえば,判決によれば,これがまず2次主冷却系設備の機能不全(A)を帰結した上で,かつ1次冷却材冷却能力不全(B)そして終局的に放射性物質が周辺の環53 高木・前掲注(1)『行政訴訟論』374~379頁。