高知論叢108号

高知論叢108号 page 72/136

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70 高知論叢 第108号境に放出される事態(Y)に結びつけられている。さて,既に述べたように,予測概念の具体化は行政訴訟においては,まず第一次的に行政による具体化が先行し,それを裁判所が追試,もしくは評価....

70 高知論叢 第108号境に放出される事態(Y)に結びつけられている。さて,既に述べたように,予測概念の具体化は行政訴訟においては,まず第一次的に行政による具体化が先行し,それを裁判所が追試,もしくは評価・代置という作業をたどる。したがって,裁判所はこの点をよほど意識しないと,二つが混在し,ややもすれば誤解54を生じさせるおそれがある。ここでもA,B,Yが事象の連鎖として単純に結びつけられていることから,行政判断を代置しているような印象をあたえる。しかし,筆者はこの点については4で述べた。すなわち,どのような審査を行うにせよ,そこに過誤欠落があったときには設置許可が禁止されるそうした項目を,あらかじ事実認定前に定めておかないと,審査自体が成り立たない。そしてこの項目は当然に先行して行われる行政による法の具体化 ここではA(2次主冷却系設備の機能不全)∧B(1次冷却材冷却能力喪失)∧…(判決の明言はないが,C(圧力容器損壊)∧D(格納容器損壊))→ Y(放射能外部漏れ) に対する評価を伴う以上,実体判断である。が,この大枠判断のレベルでの実体判断を批判することはできない,と。したがって,あえて,筆者流の判断過程の統制の側から判決を訂正すると,「安全審査に瑕疵があり,その結果として,放射性物質が環境に放散されるような事態の発生の具体的危険性を否定できない」ではなく,「行政が実践的にリスクを排除すべき安全審査の項目において,その審査の過程において瑕疵がありリスクの排除が不明な場合には,放射性物質が環境に放散されるリスクの排除もまた同時に不明となり,これが実践的に排除されている,とはいえない」の謂いが正解であるように思える。しかし,これは単なるレトリックの問題であり,実体判断の批判は,判決「各論」においてなされるべきである。54 高木・前掲注(1)『行政訴訟論』384~388頁,藤原・前掲注(51)190~192頁。こうした二つの法適用における混同の危険は既に,伊方原発最高裁判決当時から一部で指摘されてきた。前掲注(47)「伊方・福島第二原発訴訟最高裁判決をめぐって<座談会>」29頁,交告発言内「レビュー」概念を参照。また,交告・前掲注(41)198頁も参照。なお,ドイツにおいては,たとえば,ゼンドラー判事のように,二つの法適用の違いを認識する法学方法論の意識が高い裁判官もいることを付記しておきたい。Horst Sendler,Normkonkretisierende Verwaltungsvorschriften im Umweltrecht, UPR 1993, 321.