高知論叢108号

高知論叢108号 page 76/136

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74 高知論叢 第108号ず,炉心が溶融することは避けられないところである」と。(オ)検討まず,指摘したとおり,総論部分で「放射性物質が環境に放散されるような事態の発生の具体的危険性を否定できない」といって....

74 高知論叢 第108号ず,炉心が溶融することは避けられないところである」と。(オ)検討まず,指摘したとおり,総論部分で「放射性物質が環境に放散されるような事態の発生の具体的危険性を否定できない」といってしまったことが,最後の重大性認定における実体判断と思わせる表現に結びついていることは明らかである。したがって,総論を「~実践的に排除されている,とはいえない」に変更し,各論をこの表現であわせれば,少なくとも,絶対的安全の哲学の立場をとったとの誤解55は避けられた,と考える。しかし,繰り返しになるが,問題はこうしたレトリックではなく,各論での科学的判断にある。仮に事故と事故後の実験がなかったとして,原告(控訴人)がナトリウム腐食に関する文献や独自のデータを提出した場合,裁判所は上と同じような論理を提示することは許されるだろうか。既にみたように,科学的論証の終局場面で,裁判所が法則や初期条件を追加したり,修正することは原則許されない。そうすると,上記の各論におけるナトリウム腐食の議論では,裁判所は独自の認定で新しい法則を追加しているし,またナトリウムの熱的影響についても,裁判所はナトリウム燃焼に関して行政が利用した法則や初期条件を直接否定・訂正しているので,この限りで,裁判所は行政の優先的判断権を侵害すること(den Funktionsvorbehalt zugunsten der Genehmigungsbehorde zuverletzen)56,になろう。法則・解析の利用という終局的論証の場面で裁判所にできることは,第三ミュルハイム・ケルリッヒ判決が指摘したように,行政の科学的論証を評価することではない。そうではなく,論証過程のチェックという立場からみれば,1)誠実に十分な資料を収集し,2)結果不確定な部分があれば,その不確定部分を明示し,3)その不確定部分の処理方法を述べる,行政がこうした論証スタイルを維持しているか,否かという審査である57。そうすると,裁判所にできることは,まず,原告が提出したナトリウム腐食55 藤原淳一郎「控訴審判決の法的論点を分析する」月刊エネルギー5 月号(2003)35頁。56 BVerwGE 78, 177(181).57 我が国でも類似した主張がある。交告・前掲注(41)197頁参照。