高知論叢108号

高知論叢108号 page 77/136

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行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察75などの学説や論文を行政は知っていたのか,知っていたとすれば,それをどのように評価したのかについて論証を求める。そして行政の論証の中に,問いと答えとの関係で....

行政の判断過程における過誤欠落に関する一考察75などの学説や論文を行政は知っていたのか,知っていたとすれば,それをどのように評価したのかについて論証を求める。そして行政の論証の中に,問いと答えとの関係でズレがあったり,リスク調査の問題を余裕設計等のリスク評価で答える等,論理のすり替えをしている,と判断した場合には,リスク調査が十分であったか否かの事実認定をしっかりする必要がある。こうしたリスク調査の充実に関する事実認定(tatsachlichen Feststellungen)は十分に司法権限に属する。6.むすびにかえて福島第一原子力発電所事故調査員会の報告書では,地震や津波リスクが意図的に無視された等,知見が中立ではなかったことが指摘されている。こうしたリスクに対する知見や調査の恣意性は本稿の視点からは,行政の論証におけるヘンぺル・オッペンハイムモデルの悪用と捉えることができる。すなわち,まず被説明項ありき,という姿勢,所与である既存の施設,あるいは計画を見直すことはしないという姿勢を前提に,法則と初期条件を恣意的に操作することで論証を成功させることの問題点である。しかしながら,行政訴訟では,行政が依拠した法則や解析が明らかに不合理な場合-たとえば「あらゆる条件下でナトリウムは鉄を浸食しない」(これは実践理性ではなく,その前の理論理性の問題になろう)とか,今後の安全審査で福島原発事故調査の結果が明らかに反映されていない解析条件など-を除けば,司法審査でこれを訂正する(korrigieren)ことはできない。しかし,それでも本稿が示したかったのは,判断過程の統制を論証過程の統制として捉え,これを厳格化することである。そのために必要なことは,まず行政の厳格なリスク調査・評価の義務を原子炉等規制法の解釈として読み込みことであり,加えてこれを使いこなす裁判官の能力が重要である繰り返しになるが,裁判所は,行政が行った指針の運用を追試する際,それと同時に欠落が違法となる項目を論理的に再構築する必要がある。この作業は指針に依拠しつつも,司法独自の法の適用という側面を有することは認められ