高知論叢108号

高知論叢108号 page 8/136

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6 高知論叢 第108号物学的には男性であって,真正半陰陽でも女性仮性半陰陽でもないことが認められるとする。従って本件においては,性的倒錯者に対するいわゆる性転換手術そのものが医学上広く治療行為として認められるか否か,それが肯定されるとしても本件手術が具体的に正当な治療行為として評価しうるか否かが最も重要な問題点であるとして,以下の通り判断を示した。まず,性転換手術の内容と医学的評価につき,ジョーンズ・ホプキンス医学研究所の例等を示しながら述べた上で,当裁判所の性転換手術に関する考え方として,「性転向者に対する性転換手術は次第に医学的にも治療行為としての意義を認められつつあるが,性転換手術は異常な精神的欲求に合わせるために正常な肉体を外科的に変更しようとするものであり,生物学的には男女性いずれでもない人間を現出させる不可逆な手術であるというその性格上それはある一定の厳しい前提条件ないし適用基準が設定されていなければならない」9。「現在日本においては,性転換手術に関する医学的研究も十分でなく,医学的な前提条件ないしは適用基準はもちろん法的な基準や措置も明確ではないが,性転換手術が法的にも正当な医療行為として評価され得るためには少なくとも次のような条件が必要であると考える」10。イ 手術前には精神医学ないし心理学的な検査と一定期間にわたる観察を行うべきである。ロ 当該患者の家族関係,生活史や将来の生活環境に関する調査が行われるべきである。ハ 手術の適応は,精神科医を混えた専門を異にする複数の医師により検討されたうえで決定され,能力のある医師により実施されるべきである。ニ 診療録はもちろん調査,検査結果等の資料が作成され,保存さるべきである。ホ 性転換手術の限界と危険性を十分理解しうる能力のある患者に対してのみ手術を行うべきであり,その際手術に関し本人の同意は勿論,配偶者のある場合は配偶者の,未成年者については一定の保護者の同意を得るべきである。その上で,本件手術に対する評価として,被告人は性転換手術を施行する能9 刑事裁判月報1 巻2 号148頁。10 同上。