高知論叢108号

高知論叢108号 page 9/136

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性転換手術と刑法に関する一考察7力もある技術の優れた医師であり,本件各手術は被手術者から性転換手術をして欲しいと積極的に依頼されたため行ったこと,本件被手術者はいずれも性転向症者であると推認することが....

性転換手術と刑法に関する一考察7力もある技術の優れた医師であり,本件各手術は被手術者から性転換手術をして欲しいと積極的に依頼されたため行ったこと,本件被手術者はいずれも性転向症者であると推認することができると認定し,被告人の本件手術は表見的には治療行為としての形態を備えていることは否定できないであろうとしながら,正当な医療行為といいうるためにはいくつかの条件が充足されていることが重要であり,本件各手術は以下の点で条件に適合していないとした。イ被告人は手術前に精神医学ないし心理学的な検査を全く行っていないし,一定期間観察を続けたこともない。ロ被告人は被手術者らの家族関係,生活史等に関し問診もせず,調査,確認が全くなされていない。ハ被告人は全く単独で手術に踏みきることを決定し,精神科医等の検査,診断を仰ぐこともなく,他の専門科医等と協議,検討をすることもしていない。ニ被告人は正規の診療録も作成せず,被手術者から同意書をとるなどのこともせず,極めて安易に手術を行っている。「従って被告人が本件手術に際し,より慎重に医学の他の分野からの検討をも受ける等して厳格な手続を進めていたとすれば,これを正当な医療行為と見うる余地があったかもしれないが,格別差迫った緊急の必要もないのに右の如く自己の判断のみに基いて,依頼されるや十分な検査,調査もしないで手術を行ったことはなんとしても軽率の謗りを免れないのであって,現在の医学常識から見てこれを正当な医療行為として容認することはできないというべきである」11。被告人側からの上記②の優生保護法第28条が憲法違反であるとの批判に対しては,優生保護法第28条は,同法第34条の罰則規定とも考え合わせると,同法第3 条,第4 条,第14条のような特殊な場合においてさえも公共の福祉の見地から最小限度の肉体的侵襲により法の所期する目的を達しようとするものであり,性的自由をできるだけ保障しようとするものでこそあれ,性的自由を抑圧しようとするものではないし,従って立法目的それ自体は極めて正当であるというべきであるとする。しかも,第28条は,同法による場合の外生殖が不能になる手術を絶対的に禁止しているのではなく,「故なく」行うことを禁止しており,去勢や断種が医学的治療として行われるときには同条の禁止に違反しな11 刑事裁判月報1 巻2 号153頁。