109号

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8 高知論叢 第109号うが正確」13とも考えられるのであり,このような交通事故捜査の現状に鑑みれば,むしろ検察官の強い誘導があったと見ることも可能なように思われる。そうすると,本件が「捜査段階から当事者の....

8 高知論叢 第109号うが正確」13とも考えられるのであり,このような交通事故捜査の現状に鑑みれば,むしろ検察官の強い誘導があったと見ることも可能なように思われる。そうすると,本件が「捜査段階から当事者の納得を得て手続を進めていくことがいかに重要かを示唆している」14と指摘されるのは当然であるが,付け加えて強調するならば,当事者の納得を得ずに進めた手続の不利益を安易に被告人に転嫁することは,手続の適正性,引いては事実認定そのものの正確性に大きな疑義を生じさせうるということであろう。このように筆者は疑義を感じる自白ではあるが,検面調書の「私は,③から④へ進行する間,高知市方面へ向かう車が通る車線を横断していく状態でしたので,もう一度右方の安全確認をしていれば白バイが見えたと思いますので,私の右方の安全確認不十分が事故の原因です」15との内容からも,証拠構造として,これが過失犯たる本件の犯罪事実を証明する柱となっているといえよう。この自白を一見強力に支えているのが,特にスリップ痕を中心とする他の間接証拠である。次に,事実認定について判決は,まず,証拠上容易に認定できる事実として,被害車両の白バイが緊急走行はしていなかったこと,Xの現場の見通しが中央分離帯側で約98.6メートル,自歩道側で168メートルであったこと,左前輪約1.2メートル,右前輪1.0メートルのスリップ痕の存在,X車両最終停止位置右前輪右側あたりに削ったような複数の路面擦過痕の存在,X車両の損傷状態,被害車両の損傷状態,現場での液体漏れやX車両前方の細かな破片等の散乱,学生教員,野次馬や報道関係者と思しき者らの現場での存在,事故後21分後の午後2 時55分から5 時17分まで実況見分が行われ,Xは同日午後3 時4 分に逮捕されて警察署に引致され,同日午後4 時15分から4 時48分まで現場に戻り実況見分に立ち会った際には,既にX車両等は現場から撤去されていたことを挙げ13 高山俊吉『道交法の謎 7500万ドライバーの心得帳』(講談社+α新書,2004年)108頁。なお,同書111頁以下では,弁護士の同著者が加害車両を見た位置について,同著者の証言をなかなか聞き容れてくれない様子が叙述されているが,このような交通事犯捜査の難しさに対する考慮が確定有罪判決にはなお求められていたようにも思われる。14 京明「『高知白バイ衝突死事件』が提起する問題点」『法学セミナー』655号(2009年7 月)5 頁。15 前掲注(11)4 丁。