109号

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16 高知論叢 第109号川和夫作成のスリップ痕等の解析書49やバス乗客の新証言などである50。本事件の再審請求における特徴は,客観的に存在する重要な証拠であるスリップ痕が,上述したように一応仮定的ではあれ,か....

16 高知論叢 第109号川和夫作成のスリップ痕等の解析書49やバス乗客の新証言などである50。本事件の再審請求における特徴は,客観的に存在する重要な証拠であるスリップ痕が,上述したように一応仮定的ではあれ,かなり強い主張として,警察によるねつ造された証拠とされていることである。ただし,周知の通り,刑事訴訟法第435条1 号の証拠物が偽造されたものであることによる再審や,7号の司法警察職員の職務犯罪を理由とする再審は,偽造や職務犯罪の事実が確定判決により証明されたことが要求されるのであり,本件のような被害者が警察官の事案という「事実上の特性」とでもいうべき事情を除いても,困難なことに変わりはない。虚偽証拠を理由とするこれらのいわゆる「ファルサ再審」は,「実際に認められる例はまれである」51。また,同法437条の確定判決に代わる証明も,「対象者の死亡,時効の完成,起訴猶予処分などの理由によって,当該事実は証明可能であるのに確定有罪判決が得られない場合が想定」されていると解されており,仮に証拠の優越で足りると解した52としても,偽造を証明する証拠の発見には一層の困難が予想される。しかしながら,この偽造等の「疑い」は,435条6 号の新証拠による再審請求における旧証拠の再評価において加味されなければならないのではないか。なぜなら,過失犯の成否が問題となっている本件においては,確定判決において請求人車両のスリップ痕とされたものの由来に疑いがある  バスが止まっていたとの校長と生徒の一致する証言は重いといわざるをえない  ということは,他の新証拠との総合評価において証拠構造が動揺することも考えうるか49 山下・前掲注(9)58頁以下には,このX側の依頼による交通事故鑑定人の石川和夫氏によるバス実験の様子等が叙述されている。50 前掲注(36)15頁以下。51 後藤昭= 白取祐司『新・コンメンタール刑事訴訟法[第2 版]』(日本評論社,2013年)1073頁(水谷規男執筆部分)。52 同前1081頁の吉田岩窟王事件の最初の開始決定たる名古屋高決昭和36年4 月11日判例時報259号4 頁以下を援用しての指摘。同決定12頁以下では,この確定判決に代わる証明について,新旧両証拠の総合評価によることを判示するもので,名古屋高決昭和37年1 月30日判例時報286号5 頁以下で一旦取り消されたものの, 最大決昭和37年10月30日刑集16巻11号1467頁以下で,手続の準拠法は旧法によることから異議の申し立てはできないとして,名古屋高裁の開始決定が「復活」したものである。