109号

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18 高知論叢 第109号から反対車線に右折のため進入しようとした車両が右方車両と衝突する,ないし衝突しそうになるという経験は,ドライバーだけでなく,自動車に乗車した者であれば,経験したことがないという人の方が,むしろ稀なのではないか。この事件の特異な点は,被害車両が白バイだった,あるいは被害者が警察であったことであり,それが色々な面で,この事件を複雑にしているということは否定できない。被害者と捜査機関が同じということの持つ問題性は大きい。Xの証拠ねつ造の主張も,この点に由来するところが大きいのではなかろうか。また,本件を複雑なものにしている背景として,交通事犯ということもあるように思われる。誰もが日常の生活で経験しうる,ないしは経験しかけたことのある交通事故については,一方で昨今のいわゆる「悪質」「重大」交通事犯に対する厳罰化の主張や立法があり,他方で交通事犯の捜査の問題点も指摘されているところである。緩い手続で重い刑罰を科すという傾向がないか,注意しておくべきことであろう。上記のような特徴的な背景を有する本件の検討は,現在の冤罪についての問題状況をより多角的に検討する意味でも重要であるし,裁判員制度導入後の一連の「改革」の帰結が注目される刑事裁判全般についても,重要な課題であると思われる55。本稿では,冤罪とその救済という問題についても,特に再審請求の前提となる確定有罪判決の事実認定とその証拠構造を確認しつつ,再審請求審における問題も含め,これに対する疑問点の幾つかを簡単に検討したに過ぎない。さらに本事件との関係で理論的に検討すべき課題は,例えば冤罪が主張されている場合の施設内処遇の在り方など,本稿で扱った以外にも数多く存在しよう。それらの課題についても,今後の我々筆者らによる本格的検討の前提作業として,本稿を検討の出発点としたい。(2014年9 月5 日脱稿)55 一例を挙げれば,例えば,本件のような一見任意性のある自白の信用性が争われることに鑑みて,逆に身柄拘束下の取調べにおいて,取調べ過程の録画が全面的であれば足りるのか,さらに弁護人立会いが必要ではないか,などの論点が考えられる。