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概要

110号

18高知論叢第110号証されている事,市場の公的・私的な規制が少なく商品の完全な代替可能性があること,市場価格情報の完全な公開,自由な参入と退出の保証がある場合などに限られるが,そのような市場は現実には少ない。従来の市場理論では,経済学と商学のそれぞれの側面に関する研究は多くの蓄積があるが,その両面を見据えた労作はさほど多くない3。実態経済において一物一価の条件が成立するためには,売買参加者の合理的経済行動,生産用途の転用が容易,貨幣中立性,国家干渉がないなどの条件が妥当する時,完全競争市場が成立されるとされてきた。しかし,純粋理論の中ではともかく,実際の経済行動の中において一物一価なる条件は虚構ではなかったのか。卸売市場においては通常多くのアイテムが売買参加者と取引されている。一物一価が実現するかに見えても実は一物多価であり,全く同一の商品であっても卸段階において異なる価格で取引されている。生鮮食品の相対・セリ取引は無論の事,雑貨においても取引量に応じて卸の販売価格が異なる。e-コマースが実現しても完全な一物一価で売買されてはいない。商品が均質であり,最も一物一価に近いと考えられていた金融市場であるが,現実の世界の株式市場において,絶えず無数の取引が行われている。あらゆる市場では一物一価ではなく一物多価,一物個価とも言える。一般に,証券,貴金属市場など高度に組織化された市場は均衡市場であり,その対極が生鮮野菜市場であるとされるが,いずれも厳密な意味の一物一価が成立しているわけではない。市場経済の初期においては,公的規制と産業保護策によって市場が成立する側面が少なからずある。メーカー,卸,小売による情報の独占・寡占化が進むと,小規模卸,仲卸,ブローカーを抱えた市場はその存立意義を失う傾向がある。また新興国では卸機能の肥大化傾向がみられる。あらゆる商品市場は商品の物的,資源的,社会的性格によってそれぞれ特質を持っている。総じて,雑貨に代表される商品市場は,生産,流通,価格形成に関して,最も独占,寡占化が少ない。葉物野菜,果実などの生鮮食品もこれに含まれる。その対極にある市場が,金融,貴金属,原油などである。このよ3斎藤一夫「市場についての覚書」『農業総合研究8巻1号』(1954年1月)