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110号

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110号

商品市場に関する試論19うに商品卸売市場には素材ごとにいくつかの特徴がある。第一に,原油市場の様な地域的,政治的な影響に左右されやすい商品は価格支配力を持つ勢力に依存する。石油メジャー,OPEC,新興資源国の寡占時代を経て,国際先物石油市場が形成されるような寡占市場である。石油のような商品は,卸の価格差は次第に平準化される。第二に,食品は,生産費の地域別格差が大きい。先物価格形成に強みを持つCBOT(シカゴ商品取引所)は,交通の要衝と生産地の外延部に設置された歴史ある市場である。取引所の集分荷機能が変化すると市場の役割も変質せざるをえなかった。第三に,義烏雑貨市場にみられる様に,商品が常に入れ替わり,長期安定的に供給される市場がある。F.A.ハイエクは自由市場において,価格競争で優位にある生産を妨げられないが,その競争は中央の指示では決して生み出すことができない,ただし「大部分の経済活動部門においては,この状態がほぼ完璧に達成される事は決してなかった。」4と附言する事を忘れなかった。市場経済における政府の役割は,市場メカニズムが働かない分野,つまり市場の失敗を是正することであるが,中国は20世紀前半のドイツや日本の様に,統制型市場経済をつくった5。1980年代,旧計画経済の国々は,チューネン“孤立国”モデルを彷彿とさせる初期市場の形態が各地で見られたが,そのような市場が短期間で巨大市場に変貌するものが現れた。就中,中国では広大な国内市場の存在と市場間競争,産地形成の結果,21世紀初頭において世界的な商品市場が形成されてきた。社会主義市場経済と自称するシステムは1980年代の中華人民共和国が導入した経済体制であり,市場経済を通じて社会主義を実現するとされた。取引の場としての卸売市場とは卸売商が販売し,小売・売買参加者が商品を求める場である。洋の東西を問わず特定の区域以外での市場は統制された期間があった。1970年代までの中国では,自由市場は禁止であり,貨幣経済の発展4F.A.ハイエク『ハイエク全集第10巻・法と立法と自由』邦訳版春秋社107-108頁5統制型市場は19世紀から20世紀初頭において欧米食品市場にみられ,日本では20世紀前半に軍と内務省,農林省が主導して市場制度が導入された。日本では戦前戦後の統制経済を経て官僚主導型,規制が強い市場制度が維持されてきた日本の中央市場制度は内務省,軍主導で企画され,米穀法同様,統制的性格をもち,かつ以後半世紀以上この制度が維持された世界でもまれな制度である。田村安興『日本中央市場史研究』1994年清文堂。