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110号

40高知論叢第110号共サービスの供給に関することを問題とするものである。ドイツにおける生存配慮の概念は,行政法学者のフォルストホフが1938年に提唱したところにさかのぼるが11,現在においても明確な定義がなされておらず,一般的に「供給することに特別な公的利益が存在するあらゆるサービス」と理解されている12。したがって,関係する分野についても確定しないため,関係する主要な分野のリストとして提示されることになる。例えば,移動(交通インフラ,公共交通,通学輸送など),技術的インフラ(上下水道,通信サービス,エネルギー,廃棄物処理),文化施設,学校・職業訓練施設,保育施設,医療・介護,消防・災害対策,買い物(日用品の売店),公的行政などである。ドイツの人口減少と高齢化という人口構造の転換は,生存配慮の保障に影響を与えている。人口が減少し高齢化の進んでいる,人口密度の低い地域(dunnbesiedelten Raumen)にとっては,持続的に生存配慮の保障を行っていくことが難しくなる。人口減少は生存配慮の保障の観点からすると,「スイッチを切る」ようなものであり,需要が減少していくことで,サービスの供給が「より少なく,より遠く,より高く」なってしまう13。ドイツにおける生存配慮の概念は,国家の活動と社会秩序のイメージと密接に結びついているという14。第2次大戦後,また東西ドイツ統一後も,国家によるインフラ整備などを通じた生存配慮の保障は,単に市民へのサービス供給ということにとどまらず,社会的・領土的な社会統合を促進するものでもあった。しかし,近年の人口構造の変化と地域間不均衡の拡大は,ドイツにおける福祉国家理念の中心であった「同等の生活条件の創出(Herstellung gleichwertigerLebensverhaltnisse)」(1994年以前は「統一的な生活条件の創出Schaffungeinheitlicher Lebensverhaltnisse」)に影響を与えている。東西ドイツ統一後の旧東ドイツ地域への多額の財政移転の発生と,EU統合の進展,特に共通通貨11フォルストホフの生存配慮概念については,中富[1983]のほか,塩野[1989],角松[2000]などを参照。また,馬場[2011]によると,近代の都市行政を表現する「給付行政」を支える理念として,ドイツ近代都市史研究においても言及される概念であるということが指摘されている。12Kupper[2012]S. 88.13Aring[2013]S. 21-22.14Neu[2009]S. 11.