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110号

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概要

110号

土佐藩領の湊に関する覚書65船?)へ(艀など利用して)荷積みをしたと記載している。奈半利浦や安田浦については「難風又ハ潮違出入不成」とあるので,川湊の規模も大きく,風や潮の悪条件の場合を除いて,一定規模(大中の廻船)も入港できた可能性もある。川湊の規模にもよるが大規模廻船の入港も可能であった。大河川の四万十川河口に位置する下田は,大規模廻船も寄港できたが,それでも「東風」の場合は出入港しなかったと記している。多くの川湊が風(「難風」)や潮流(「潮違」)によっては出入港ができず,湊の機能の一つである「舟がかり」(係留や停泊)ができないところもあった(新居)。中小河川が多い土佐の川湊は,上記の様相をもった。第四に,「川湊」に関連する記載事項として,恒常的に利用できる「川湊」のない浦では,小川を含めた川の記載があることが興味深い。たとえば「川有,舟出入なし,猟船ハ入也」(野根浦)の記述は,荷船は出入りできないが,漁船は風向きによる海の状況次第で出入りしているとする。漁船規模の船の場合,係留や避難に川が利用できるのである。「小川二ツ有,東風ニハ波荒ク入かたし」(佐喜浜),なども同様の状況を記している。隆起海岸で砂浜が展開していない場合は,浜に漁船を上げることができず,川が避難,係留に果たす役割も看過できないのである。第五に,過半の浦が「片灘」と記されていることである。片灘については,(註前掲拙稿6)でも触れたが,入り江がなく,沖の潮流が早く,かつ海岸に船を係留することが地形上困難な地域を呼称したものであろう。それでは,「片灘」の浦では船を停泊することはできなかったのであろうか。第六に注目されるのは,各浦での「ふりかゝり」(振繋)の有無を記している。振繋とは「岸壁や浮標へもやいづなをつながずに,碇だけをおろして船を停泊すること」(『日本国語大辞典』)の意味である。湊のないほとんどの浦では,「難風」でない限り,岸に近いところに碇を下して停泊できたことが判明する。「難風」は,碇だけの停泊によって転覆や潮に流される危険がある強風や波浪を想定しうる。確認しておきたいのは,湊がなくとも,浦への寄港や停泊が全くなかったわけではなかったのである。岸に近い海や沖で風,波浪,潮など振繋が可能な天候であれば,浦の岸近くに停泊し,陸上との間で艀を使った荷や