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68高知論叢第110号人の移動,さらに船相互間の魚の売買などもあったと思われる。一方,湊がなく,しかも「片灘」の多くの浦は,船の係留もままならず,生業の面では規制をうけたであろう。湊の有無は海運業,鰹漁業の隆盛化にともなう鰹船の大型化(乗組員17人以下に規制されたが)によるこの方面の漁業など,生業における一定の規制要因となったのである。二.湊入津と風,潮について近世の海運において,順風か逆風かによって,その運航は大きな差が生じた。たとえば,穏やかな瀬戸内海での大坂・丸亀間を航行した金毘羅船の所要日数は,5日,早いと3日3夜の安定した航路であった。しかし,安政6(1859)年4月,土佐国宇佐浦(現在,土佐市)の真覚寺住職であった静照が乗った金毘羅船は,丸亀での乗船から大坂の安治川口まで10日間を要した。東風による停泊がしばしばあった。帰路は,5月22日夕刻に大坂の安治川口を出帆して,24日早朝には丸亀に着いた。乗船した21日夜は西風で出帆せずに船中泊,実際の走行時間はわずか1日半,航行中は順風だったからである(註7)。金毘羅船の乗客は,風待ちによる港停泊中でも,基本的には上陸できなかった。風待ち中は直ちの出帆に備えるためである。これは金毘羅船に限ったことではなかったであろう。遠距離の航行では,季節風の影響が大きかったことは容易に推察できよう。表3は,土佐藩の廻船による土佐(浦戸)と江戸との間の月別(季節)による運(註航の良否と風の影響がわかる史料8)を表示したものである。季節風の影響では,10月から12月(旧暦,以下同じ)の江戸行きは西風で良好であること,1月上旬の西風は「松の下」と称して,江戸着は「早着」であることなどを記している。2月には,それまでの西風の「戻シ吹」の東風となり,中旬には雨を伴い東風が吹き,そのうえ時化が多く,江戸行きは不可とする。この間10月から1月までの江戸行きの廻船は,東風となる2月,3月まで江戸に滞留することになるのが一般的で,12月中に土佐に帰帆することもあるものの,これは珍しい事例とする。冬の西風は言うまでもなく,季節風(北西風)である。月別