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概要

110号

2高知論叢第110号略の意義は,これまでほとんどオーソドックスな経済理論からは研究されておらず2,またその意義は経済学的に自明でもない。例えば,商品に付いているくじ引き券の期待価値が10円であれば,この景品戦略は消費者にとっても企業にとっても商品に対する10円の値引きと等しいため,理論的には価格変更と等しい効果しか持たない。このように,単純な静学的状況であれば景品戦略の意義は無くなってしまう。しかしながら,本稿ではTamura(2015)の理論展開に基づき,企業が動学的状況に直面している場合には景品戦略の意義があることを明らかにする。より具体的には,景品戦略は,企業の動学的非整合性問題を解決し,利潤を増加させ得ることを証明する。セクション1では,まず企業の動学的非整合性の例として,ネットワーク外部性モデルを紹介する。セクション2では,このネットワーク外部性などを特殊ケースとして含むような動学的非整合性問題の一般化モデルを提示する。セクション3ではこの一般化モデルに景品戦略を導入すると,問題が解決できることを証明する(景品戦略定理)。また直感的な解釈を提示している。セクション4では結論と謝辞を述べる。1企業の動学的非整合性問題の一例本稿では景品戦略が企業の動学的非整合性問題を解決することを証明するが,まず,企業の動学的非整合性問題とはどのようなものか,一例としてネットワーク外部性モデルを取り上げる。なお,景品戦略はネットワーク外部性モデルだけを解決するわけではなく,より一般的な動学的非整合性問題を解決する。実際に,次章以降ではネットワーク外部性モデルをも特殊ケースとして含む一般化モデルとして企業の動学的非整合性問題を表現し,その解決策として景品戦略を提示している。我々が一例として取り上げるネットワーク外部性は,財から個人が得る効用が,財のユーザー数が増加するにしたがって増加する経済現象のことである。2オーソドックスな経済理論からではなく,リスクを好む消費者を仮定した行動経済学から景品戦略を分析した研究はKalra and Shi(2010)などのように存在する。