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概要

110号

84高知論叢第110号しやうと云ふ様な野心は毛頭なく謂はゞ県下の斯業を救済する意味を以つて其の経験を好適したる性質,換言すれば(改行)労力□を提供し資本の力と相俟ち本島斯界の為めに貢献せんとするに外ならない,勿論珊瑚採取等にも従事する計画である高知の珊瑚は潮流の変化に依り採取高減退し目下は十万円程度であらう序であるが基隆の珊瑚にしても一般漁業と同様採取方法たるや全く幼稚を極め基隆には現在高知から二十数人の斯業者が来て居るが夫等の話に依ると危険で見て居られない,唯無闇に網を引張るのみで一向に目標が立たない様だ,決して急ぐ事はない彼等の採つた後で結構であると言つてゐる,高知の夫れも(改行)方法は同一であるが網の手ざはりに依つて之は枝である,或は幹である又は岩礁に引懸つたと云ふ様に直ちに分る,決して盲滅法に採る様な事はない,之れは全く多年の経験に依り会得したる一種の技術にして他の追随を許さない処である。之等の点も亦移住と共に相協力してやつて行くべきものであると思ふ,基隆の珊瑚発見後高知は本場であるが故に各種の誤解を生み最近では基隆に五百人の漁夫が大挙して移住して来るとか四隻の採取船が許可を得新竹に根拠を置き出漁するとか来台後新聞紙上等で散見してゐるがアレは全く根拠のない(改行)流説□で特に其誤りである事を力説したい,今回の計画は勿論基隆も目標としてゐるが単に同地のみでなく全島の漁業地に移住せしめたい訳である。願くば本県の微意を諒せられ之が実現の為め御援助を乞ひたいと思ふ云々(終)田村実の言葉を借りるならば,1高知県と台湾が漁業環境「潮流の関係,漁獲の方法其他気候等の点」で「非常に似通つてゐる」という認識の下,高知県(及び当県産業界)の真の漁民移住事業の目的は,2「(勿論基隆も目標としてゐるが)単に同地のみでなく全島の漁業地に移住せしめ」る所にあった。つまり,珊瑚漁業をシンボルとした基隆への漁民移住は,少なくとも高知県の漁民を台湾全島の漁業地へ移住させる計画を現実のものにさせる契機となったか,あるいは逆に,全島移住を視野に入れたパイロット的移住であったのではあるまいか。