ブックタイトル高知論叢111号

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高知論叢111号

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概要

高知論叢111号

日本の資産構造に関する歴史的研究3で土地資産が占める位置を理論的に明らかにしようという視覚,日本の大都市固有の問題とする見方,日本の所有権を絶対的に優先される政策が問題だとする政策論,土地が金融商品としてグローバル市場に流通している金融論など様々な視覚からのアプローチがあった。「住宅と公共施設の適正な価格を提供するという事だけではなく,コモンズとしての社会的文化的便益が欠落すること」2とする発言もあった。これに対して,岩田規久男(1978)(1993)らは土地問題,バブルをあくまで理論で説明されるべきと主張した。同氏は,土地の需給関係について,現在資産効果と負の代替効果の関係を理論的に明らかにした。「他の条件を一定として生じるとすればフローの土地供給は地価が上昇するとかえって減少することがある」3と述べた。フローの土地供給は他の条件,すなわち税制,金利,転用規制の緩和,経済成長,土地利用計画などの諸条件によって異なることは当然であるが,短期的なフローの土地供給条件を一定とすると,土地供給量は地価と代替効果の関数となる。ただし,戦後の日本における土地供給量は,後述するように数年から10数年間隔で大きく変動した。土地問題とは,少数者が土地への支配力を行使することによって多数者との間に利害対立が生じている事態である。私的資本である土地の収容や取引に関する規制は国ごとに異なる。日本では土地の私的所有権が強い反面で,都市計画・公益目的による土地収容は困難であり,農地から宅地への転用には農地法による厳しい制約があるという日本特有の土地問題を抱えている。一般に土地取得とその価格は土地市場とともに各国,各地域における土地と金融政策,市場経済の成熟度にも規定される。日本の土地問題の根源には,利用より私的所有権を優先してきた明治以降の土地政策にあるとする見方が多かった。本稿は日本の土地と資本に関して,従来は十分に活用されていなかった統計データを整理してその推移を歴史的に明らかにしようとするものである。23宮本憲一(1994)5頁岩田規久男(1978)『土地と住宅の経済学』41頁