ブックタイトル高知論叢111号

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高知論叢111号

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高知論叢111号

72高知論叢第111号の裁量行為に対する司法統制については行政事件訴訟法30条が次のように規定する。「行政庁の裁量処分については,裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り,裁判所は,その処分を取り消すことができる。」と。しかし,当然のことながら,このような短くかつ抽象的な規定は裁判規範としては十分ではないので,判例は裁量行為の個別事例に応じて,重要な事実誤認の有無の視点から,あるいは判断過程の視点,あるいは社会通念の視点などから個別事例ごとに判断を下してきた。この点で,行政事件訴訟法30条は民法不法行為法と同様に,判例法の様相を呈しているといっても言い過ぎではないであろう。一方で,学説の使命は判例とは異なり,一回的な紛争解決ではなく,司法審査基準あるいは司法審査方式の統一的把握と分類,及びその体系化にある3。学説は一般に,裁量審査方式として判例が比較的初期に採用してきた,いわゆる「社会観念審査」には批判的で,その代わりに行政決定に至る判断の過程を子細にチェックするという審査方式である「判断過程の統制」という審査方式を支持する傾向にある。この背景には覊束行為に対する司法審査方式である実体判断代置方式が裁量行為にまで及ぶことを回避しつつ,それでも曖昧な基準で裁量統制がなされないよう,司法審査の透明性と密度を高める,という狙いがある。しかしながら,この判断過程の統制の具体的内容及び個別事例での適用のあり方,またその他の審査方式,実体判断代置審査,比例原則審査等との関係についてなど,学説で必ずしも十分な一致があるわけではない。この中でも特に問題になるのは,判断過程の統制審査の実体判断代置審査への接近問題である4。「社会観念審査の変容イギリス裁量論からの示唆」自治研究90巻2号(2014)20頁以下,山本隆司『判例から探求する行政法』有斐閣(2012)218頁以下,三浦大介「行政判断と司法審査」磯部力,小早川光郎,芝池義一編『行政法の新構想Ⅲ行政救済法』有斐閣(2008)322頁以下,亘理格『公益と行政裁量行政訴訟の日仏比較』弘文堂(2002)。3ドイツにおける裁量審査に関する判例と学説の使命の違いについての考えが参考になる。Eberhard Schmidt-Asmann, Die Kontrolldichte der Verwaltungsgerichte -Verfassungsgerichtliche Vorgaben und Perspektiven NormkonkretisierendeVerwaltungsvorschriften, DVBl 1997, 281-289.4これらの点については,文献を含め,赤間聡「専門技術的裁量と科学技術的判断に関する行政の優先的判断権の論理2号(2011)82頁以下参照。原発の安全性判断を題材に」青山法学論集第53巻第