ブックタイトル高知論叢111号

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高知論叢111号

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高知論叢111号

74高知論叢第111号してはいないからである。このことは効果裁量を考えれば,一目瞭然である。たとえば,公務員懲戒処分の根拠規定は「できる規定」を伴いかつ処分の複数選択の余地を残している。いわゆる決定裁量と選択裁量である。ここでは裁判所は懲戒処分要件が確認できても,個々の懲戒処分,すなわち判断の帰結の妥当性を審査できない。したがって,裁判所は「判断の過程」をみるしかないことになる。ただ問題は,「判断の過程」とは何か,この審査は本当に「帰結に無関心な審査」であるのか,という点である7。判断過程の統制手法は計画裁量の領域で展開されてきた判例理論であるという点は争いがないであろう。ここでの判断過程とは公益間あるは公益と私益間を比較衡量する「衡量過程」であり,法律の執行,すなわち通常の要件効果規定を適用するいわゆる「包摂」作用とは異質な極めて抽象度が高い思考作用である,としばしば観念される。このように衡量過程は抽象度が高い一方で,問題になっている事案は他の事案と同様に個別具体的なものであるので,抽象度の高い思考過程から始まり,個別事例から判断の素材を探し,終局的に行政決定という「帰結」に至るまでの流れをどのように理解するのかという点で様々な議論が成立する。そして,裁判所としてはこの一連の流れの中のどこにどのような瑕疵のチェックを入れることができるのかという点も問題になる。加えて,学説で正当にも指摘されているように8,判断過程の統制審査と比例原則審査とは全く別物ではない。むしろ,後述4で示す通り,比例性の問題は判断過程・衡量過程審査の終局段階と捉える見解,すなわち「帰結」に対する審査として位置づける考えがある。そうすると,この点からも判断の過程から帰結への流れ,そしてそれに対応する審査のあり方にはその複雑な実体が推測される。ここではまず,判断の過程と帰結,それに対応する瑕疵に関する基礎的な検討を行うことが必要であろう。以上のような視点から,本稿では「判断の過程」と「判断の帰結」という視7後述するドイツ法からの示唆として,この点を問題にするものとして,山田洋「衡量過程の瑕疵と計画の効力西ドイツ連邦建設法155b条2項2文をめぐって」一橋論叢94巻5号(1986)107頁以下,高橋滋「行政の政策的判断と裁判西ドイツの議論を素材として」一橋論叢93巻5号(1985)117頁以下を参照。8山本・前掲注(2)228頁。