ブックタイトル高知論叢111号

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高知論叢111号

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高知論叢111号

効果裁量,計画裁量,及び裁量瑕疵に関する基礎的考察(1)79非充足の場合には不許可という覊束行為が法的帰結となる12。このことを最高裁も以下の通り認めているようにみえる。「学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかである」と。ところで効果裁量の根拠となる「できる規定」は,当然のことながら,当該法規範すなわち学校教育法85条は要件効果規定であると捉えることを前提とする。しかしながら,もし「学校教育上支障」という要件部分にも要件裁量を認めるとすると,二重に行政裁量を認めたことになり,もはやこの法規は実質,要件効果の法規範としての役割をはたしてはいないのではないかとの疑いが生ずる。同様のことは公務員法における分限・懲戒規定についてもいい得る。学説の中にはこのことを積極的に認めているようにみえる見解もある13。そもそもあらゆる法規範を要件効果規定と捉えることは誤りで,法規範の中には別種の目的プログラム規定というタイプがあるとする行政法理解がある(後述4)。この理解によれば,多くの要件効果規定は条件プログラムに該当し,これは法適用者にある条件の下で,ある帰結を付与するように命じるもの,すなわち包摂行為と覊束行為を裏づける規範である,とされる。したがって,この規範の適用にあたっては,各状況ごとに,「唯一の正しい帰結」があることになるので,行政行為を裁判所が審査するにあたっては,「判断の過程」を問題にする意味はまったくない。これに対して,目的プログラム規定は法適用者にある目的の実現を命じるものであり,その手段を特定するものではない。すなわち,手段としての具体的な行政行為には選択の幅がある上,目的自体も複数の目的の調整を要する場合があるので,選択肢となる行政行為の幅は広範になり得る。そしてこの場合,決定は衝突する目的や手段間の「衡量」によってもたらされる。この点を4で扱う連邦行政裁判所の表現をかりていいかえれば,このような規範は法適用者が法律の目的に正しく動機づけられること,あるいはある特定の思考の仕方を命じているに過ぎない。したがって,この規範の適用に関する行政行為を裁判所が審査するにあたっては,帰結は問えず,判断の過程しか問題にできないこ1213小早川光郎『行政法講義(下Ⅰ)』弘文堂(2002)18頁以下。山本・前掲注(2)224~225頁。