ブックタイトル高知論叢111号

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高知論叢111号

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高知論叢111号

84高知論叢第111号すなわち,一つの合法な(rechtmasig)行為のみがあると観念されることになる。もちろん,要件効果部分に「公益」,「信頼できない」等の不確定法概念が含まれる場合には,現実と概念との間に溝ができ得るので,ここに法の第一次適用者である行政に決定権限があるのではないのか,という問題,いわゆる判断余地・要件裁量の問題がある。しかし,法の適用の困難さは「唯一の正しい決定」がないということを直ちには意味しないし,また事実認定,法解釈権限は司法にあるという点をも考えた場合,安易にこの点に裁量を認めることはできない20。少なくとも,裁量の名前を与えるには相応しくない,という観念が働く。以上のような思考枠組から,裁量の名に値するのは,法文上で認められる裁量,すなわち,典型的には要件効果規定でありながら,「すべし規定」ではない,「できる規定」(Kann-Vorschrift)に基づく効果裁量のみとなる。「できる規定」の場合には,法律要件が満たされることを前提に,行政行為を行うか否かの自由であるいわゆる決定裁量(Entschliesungsermessen),行政行為を行う場合でも法文上複数の選択の余地があれば,選択裁量(Auwahlermessen)が認められる21。この場合は当然のことながら,「唯一の正しい決定」は存在せず,複数の等価値の決定(rechtliche gleichwertige Losungen)が合法であると観念される。以上の点から,司法審査は合法性の審査である以上,唯一の合法な決定が想定される覊束行為については全面審査,そして複数の合法な決定が想定される裁量行為については制限審査という図式が論理的に帰結する。このように,「できる規定」に基づく,効果裁量の裁量行為以下,特に限定しない場合には裁量行為で効果裁量を念頭に置くでは,法律効果すなわち終局的個別行政決定という意味での「帰結」部分が,行政に委ねられており22このことは訴訟法上も重要な事柄となる。覊束行為に関する行政訴訟では,原告はある特定の行政決定の「帰結」を求めることがきる義務付け訴訟においては直接的に,取消訴訟では判決の拘束力として間接的にが,裁量行為では20Maurer前掲注(19)§7 Rdn. 62.21Maurer前掲注(19)§7 Rdn. 7.22Ossenbuhl前掲注(19)§10 Rdn. 22.