ブックタイトル高知論叢111号

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高知論叢111号

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概要

高知論叢111号

効果裁量,計画裁量,及び裁量瑕疵に関する基礎的考察(1)87い,とされる31。別の決定すなわち帰結について検討することは,裁量を裁判所が自ら行うことになってしまうからであろう32。以上,効果裁量及び裁量瑕疵論の概要を簡潔に述べたが,本稿のテーマである行政判断の過程と帰結という観点,そして計画裁量につながる観点からこれを四つの点にまとめたい。まず,第一に,効果裁量における「帰結」とは要件効果規定を前提とした法律効果の事を指す。したがって,あえて,ここで帰結についての瑕疵を問題にするならば,それは裁量踰越のことを指すといえるだろう。しかしながら,後述8で述べるが,法学方法論の見地からみると,学説が主張するこうした裁量踰越は元来,裁量の瑕疵とすることには疑問がある。というのも,これは覊束行為にもいえる単なる包摂のミスに過ぎないからである。たとえば,我が国の例で考えると,公務員の懲戒が争われる事例で,もし行政の決定が過料であれば,そのような処分は裁量瑕疵の名には値しないぐらいのミス,法律学の初歩的なミスであることは明らかであろう。これは取消事由というよりも無効事由になるように思われる。次に,第二に,上記の点から,帰結に関する瑕疵があれば,もはやそれがどのような判断過程を通ったのかを審査する意味は全くない。すなわち,効果裁量の司法審査においては帰結についての瑕疵である「帰結の瑕疵」と過程についての瑕疵である「過程の瑕疵」が並行して行われることはあり得ない。つまり,実質的には効果裁量における裁量審査は過程の瑕疵の審査に他ならず,上記の意味での裁量踰越を除く他の二種類の瑕疵を探る審査である33。第三として,以上の点から訴訟法上の結論が裏づけられる。そもそも効果裁量では複数の帰結が等価値に合法であるから,裁量踰越という特殊な事態を除けば,裁判所は帰結をみても意味がなく,過程をみるしかない。したがって,行政裁判所法114条の裁量行為の違法性とは純粋過程の瑕疵のみを意味するので,処分取消の判断においては,他の帰結の可能性について裁判所は検討して31Friedhelm Hufen, Verwaltungsprozessrecht, 9. Aufl., Munchen, 2013,§25 Rdn. 26.32Hans J. Wolff/ Otto Bachof前掲注(19)§31 Rdn. 44.33比例原則審査の例外があるようにみえるが,比例原則審査が「正式な意味での帰結の瑕疵」の審査ではないという点については後述8で詳述する。