ブックタイトル高知論叢111号

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高知論叢111号

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高知論叢111号

日本の資産構造に関する歴史的研究7戦時体制期によって日本の国民所得と資本はようやく停滞局面から脱した。?第二次世界大戦後の統計トマ・ピケティ(Thomas Piketty)は次の事がいずれの資本主義国にも共通する歴史的傾向であることを明らかにした。すなわち,(資本収益率)r>(経済成長率)gという命題の例外は両大戦間期だけであり,その傾向は欧米諸国に共通すると述べた。ところが図2,3に示したように日本においてはその逆であった。戦時体制下と戦後高度経済成長期,並びに21世紀初頭においてのみ(資本収益率)r>(経済成長率)gは妥当しているが,その他すべての時期においてはr<gである。第二次世界大戦後の日本において,国民所得の伸び率を配当率の伸びが上回った時期は,高度成長が始まった1955年(神武景気)から1974年(第一次オイルショック後)のみあった。1974年以降2003年までは国民所得の伸びが配当率の伸びを上回った。2003年は大手銀行の不良債権処理がほぼ終了した時期である。従来,欧米企業に比べて日本企業の配当性向は低かったが,21世紀に入って企業業績の回復と配当性向の上昇によって配当率の伸びは国民所得の伸びを上回る傾向がみられる。配当率は2002年度から大きく増加し,2006年度をピークに一時減少したものの,2011年度以降は,再び増加傾向にある。3.土地資産と国民所得の統計?日本と欧米先進国の比較トマ・ピケティは,世界の資本主義国において,資本収益率が経済成長率より経常的に大きくなり,富の社会的格差の増大傾向,土地を含めた資産格差の歴史的推移を示した。また,ピケティは土地資産の中の主要部分が農地から住宅地に移ることを明らかにしている。本稿末の附図に引用した資料によると,欧米先進諸国の数百年間,国富に占める農地はほとんど増加しなかったが,宅地が占める割合はこの間に急増している。ピケティは諸外国の土地資産の推移について大要以下のように述べている。「1770年米国の国民資本は国民所得の