ブックタイトル高知論叢111号

ページ
92/164

このページは 高知論叢111号 の電子ブックに掲載されている92ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

高知論叢111号

ブックを読む

Flash版でブックを開く

概要

高知論叢111号

90高知論叢第111号その前に,判例法理を理解する上でも,計画裁量の特徴を論ずる学説は有益な示唆を与えるので,まずはこちらの方からみていきたい。学説でしばしば問題にされるのは,この衡量原則規定を含む連邦建設法全般の規範としての性質,そしてその議論と関連した計画裁量という名称,及びこれと効果裁量との異同についてである。ここでは詳細は避けるが39,衡量原則に関わる限りで要点だけをまとめると以下のようになる。我が国でも80年代に法政策学や法的思考の議論において指摘されたように40,法による社会統制の手法は一般的な要件効果規定によるものばかりではなく,目的手段思考モデルがベースになる規範もある。そして,このことについて,ドイツでは早くから特にN.ルーマンが行政という組織の外部(Umwelt)へのその複雑性ゆえの対応のあり方として二つの決定プログラムを挙げて説明している41。一つは条件プログラムと呼ばれるもので,これは「外部」の情報が「インプット」として与えられ,それに基づき行動が決定される決定プログラムで,要件効果規定がこれに該当する。一方で,目的プログラムは「外部」への「アウトプット」である目的の達成が所与とされ,これに基づく行動を規定するプログラムである。こちらの方は行政の裁量規定が念頭に置かれている。このルーマンの見解は,行政活動を法律の執行に還元したり,あるいはその部分を過度に強調することに懐疑的な行政法学説からは歓迎され,特に目的プログラムというものを,実際の行政計画法の規範構造においてみる見解があらわれた42。それによると,まず,連邦建設法に代表される行政計画法は,その特徴として,行政にある特定要件を前提にある特定行政行為を義務づけるものではなく,目的の実現を義務づける法規範である,と観念される。ここでの「目的」概念は二義39この議論に関しては,高橋・前掲注(7),芝池・前掲注(9)を参照。40たとえば,平井宜雄「法政策学」有斐閣(1987)54~67頁,田中成明「法的思考とはどのようなものか」有斐閣(1989)11~15頁参照。41Niklas Luhmann, Recht und Automation in der offentlichen Verwaltung : eine verwaltungswissenschaftlicheUntersuchung, 1966, Berlin, 36ff.42オッセンビュールやホッペなど。詳細はとりわけ芝池・前掲注(9)195頁以下参照。なお,オッセンビュールの法律執行概念については,赤間聡「科学技術法領域における法律の留保規範具体化行政規則を中心に」青山法学論集第51巻第3・4合併号(2010)305頁以下を参照。