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112

2高知論叢第112号1.先行研究と問題の所在アダム・スミスは『国富論』第3版(1784年)において,合資会社が,銀行,保険,運河,給水事業などでは有効であるとしている1。ただし当時のイギリスの合資会社(Joint Stock Company)は今日の合資会社,合名会社(PrivateCompany),株式会社とも異なるイギリス的な会社であり,特権的な株主によって構成された会社を前提にしており,ファミリービジネスとは異質である。これは18世紀のイギリスの経済事情と,有限責任が明確ではないJointStock Companyの性格を背景にした主張であった。当時のイギリスが産業革命下にあり,ファミリービジネスが爆発的に拡大していた。他方で非ファミリーによって構成された大規模企業があった。アダム・スミスはJoint StockCompanyが株主の意向に左右され,排他的特権なしでは運営できず「怠慢と浪費がつねに支配的」2となると述べ,ファミリービジネスの優位性を説いた。本稿でいうファミリービジネスとは同族企業,Family Firmとほとんど同義であるが,Family Firmには合資会社,合名会社の意味も含まれる。旧会社法では合名会社の社員は株式会社のような有限責任ではなく無限責任があった。この問題の世界的学会誌“Family Business Review”が刊行されたのは1988年であり,年4回刊行されている。日本のファミリービジネス学会は2009年に設立された。日本のファミリービジネス研究は経営学からのアプローチが多かった。その趣意書でも「日本企業の太宗は,ファミリー企業(同族企業)であり,日本経済における役割は極めて重要である。しかしこれまでは,ファミリー企業に零細・中小企業が多いということもあり,研究調査は企業規模をベースにした中小企業論として取り上げられることが多かった」とある。ファミリービジネスに関して法人税法では,上位3株主の持ち株比率をあわせて50%を超える会社を「ファミリー会社」として次のように定義されている。「同族会社会社(投資法人を含む。以下この号において同じ)の株主等(そ12Adam Smith WEALTH OF NATIONS pp.758同上書邦訳第5編第1章岩波文庫第3巻429頁