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概要

112

68高知論叢第112号そうした田舎暮らし関連テーマの発表が7,8本あった。卒業後,県内製塩職人のところへ弟子入りする予定者もいる。その塩づくりのお師匠さんも都会からの移住者。また,長年田舎暮らしや農村の生業と家族の変遷を追いかけてきたわがゼミからもこの春,ついに孫ターンが初誕生。卒業後,母方の祖父母を手伝いながら,さらに2年間,農業の専門的な勉強をする予定という。孫ターンも一種のUターンであり,首都圏近郊農村での新規就農だが,就農支援補助も受けられるから自立までにはとりわけ経済的な不安は少ない。時間の制約で今回は長い原稿を綴る余裕がなく,ひとまず気になる新聞記事から興味深い記事を二三取り上げよう。2年前に移住希望地高知県6位一昨年の高知新聞には次のような興味深い記事がある。「移住希望地本県6位東京のNPO調査「高知屋」PR奏功」(2014年2月10日付)。関東在住者を中心に20~70代の1642人から回答を得た結果,移住希望先の都道府県で,高知は6位に入った。しかし,2008~11年の4年間,高知はずっと21位以下。12年は順位を大きく上げたものの,12位だった。1位は長野,2位山梨。両県とも首都圏からの距離の近さに加え,定期的な移住セミナーの開催や支援センターの常設が人気を後押ししているという。なぜ長野と山梨が都会人にとって魅力的なのか?私見によれば,両県への熱い眼差しは,昨今はもとより,いずれも1970年代にはじまる故郷回帰ブームよりずっと以前から,首都圏在住の富裕層や作家たちにとって人気の別荘地であったという側面も見逃せない。田舎暮らしに厭きたり,また疲れを感じたりすると,いつでも気軽に都会へ引き上げられるし,いまの言葉でいう「二地域居住」「二段階移住」もさほど無理はない。都会っ子たちにとって,慣れ親しんだ便利な都市部から離れ,長年培われてきた生活基盤を全部投げ捨ててまで,いきなり片田舎の農村部,それも縁もゆかりもないムラにやってきて,腰を下ろしてじっくりゆっくり暮らすには,それなりの覚悟と苦労と厳しい試練が待ち受けているのだ。