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概要

112

74高知論叢第112号より環境にやさしいエネルギー調達に小水力発電という選択肢もある。そして,移住者のなかに,こういった持続可能なことに先住民を巻き込んで熱心に取り組む者が少なからずいて,有機農業や無農薬栽培を心掛ける希望者もたくさんみられる。どこまで理想と現実との折り合いをつけ,自分たちの夢を貫けるかはわからない。しかし,このような知足的な暮らしを追い求めること自体は大正時代でマイナーは水滴として極少数派が存在し,戦後次第に増えてゆき,せせらぎとして流れ出し,静かなブームとなり,そのうち奔流となる日が来るのではないだろうか?わたしたちは地球ムラに棲んでいる以上,ヒトはじめ,すべての動植物との共生を念頭に置かなければ,人類もいずれは滅びてしまう。だからこそ,欲望という名の列車から飛び降りる勇気が大切だ。昨今のような田舎暮らしへの憧憬と試みは,實篤先生の新しき村の延長線上にある現象として捉え,そして世界平和を紡ぐものだと信じている。筆者自身の移住と農業経験自分の問題関心としては次のとおり。1.日本社会を理解するためにはムラを知ることは必須。ムラは日本社会の雛型であり原型である。限界集落の地域再生を目指した先任大野晃先生とは別の視点から,疲弊した高知のムラを考えるためには,ムラ社会に関する蓄積の厚い多分野の先学たちに,腰を据えてじっくり学ぶ必要がある。2.諺に“不入虎穴焉得虎子”(虎穴に入らずんば,虎子を得ず)という。都会や街に住む者では到底体得し得ぬ村人の心理的機微,特徴を知るためには,自らそのムラに飛び込んで観察することも大事ではないだろうか。ムラに入らないと見えてこないものもたくさんある。一方ではムラ入りすれば,“鏡中看花”(鏡に映る花をみること)や机上の空論は避けられるかもしれないが,逆にムラの人間関係にとらわれがちで,何も書けなくなる恐れも無きにしもあらず。