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112

田舎回帰解読覚書79著者が東京で農業雑誌の編集をした後,フリーのもの書きになったが,昭和46年に生まれ故郷のムラに戻った。そこで生計を立てつつ,一方ではごく普通のムラビトとして生活し,ムラの現実に立つ一方,覚めた眼でムラを見つめる,という生き方をしようと志した。農業評論一筋に歩む著者が,郷里,長野の農村に帰り住んだ7年間の記録。農村と農民意識の変貌をムラの内側から分析,明日の農村を考える。著者は戦後の30数年間,日本中の農村を訪ねて歩いた。農村地帯について知らないところはないといってもよい。ムラを内側からみたものがこの本の特色だが,それでいて,とても暖かな視線を感じられ,戦後から1970年代にかけてのムラの変貌ぶりと人々の意識の変化がよくわかる。ほう次は作家丸山健二『田舎暮らしに殺されない法』(2008年)。23歳で芥川賞受賞した丸山さんが出身地長野に帰郷し,数十年にわたって文筆業で生計を立てつつ田舎暮らしをしている。団塊世代向けに書いたこの本はまさに歯に衣着せぬ筆致で,ムラ社会の特質を的確かつ辛辣に捉えている。ムラビトはじめ,移住者にとってもかなり耳の痛いことも多々あるだろうが,ちっとも誇張ではない。田舎暮らしの経験ある人にとっては,頷くことばかりのたいへん説得力ある本といえる。よくぞここまで言ってくれた!と感心させられると同時に,同じ悩みを共有する者にとってかえって元気の出る本でもある。その鋭い観察眼に脱帽せざるを得ないというのが正直な気持ち。上記2人とも長野県出身者でありながら,いったん東京などで働き,のちに帰郷者として出身地にUターンした場合である。ムラに生まれ育った者でありつつ,冷静にムラの仕組みや人間関係を内側から見つめるそれぞれ違った独自の視点を持っている。最後に農村経済学と農業水利の研究者玉城哲『むら社会と現代』(1978年)もぜひともお薦めの一冊。農耕民,とりわけ稲作民にとって,農業用水の確保が何より大事だ。日本は水社会。おそらく,日本ほど河川,水路そして溜池の分布密度の高い地域を他に発見することは困難である。雨の降り方も異なる。いつも枯れることのない水の流れ,水面に恵まれているという点で,日本は「水社会」というにふさわ