ブックタイトル112

ページ
82/88

このページは 112 の電子ブックに掲載されている82ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

112

80高知論叢第112号しいはずである。水源が豊かなはずの日本は同時に常に水不足の悩みをもつ。水へのひそやかな憧れ。ひそやかという表現には,繊細な感性を含めているが,同時に,日本人が水の強迫観念にとりつかれ,水をめぐる社会的緊張関係の呪縛から逃れることができなかった社会でもあったということをいう。藩政期の新田開発と米経済の確立。渇水年の水争いの多発とムラ同士の対立。用水慣行は水の配分をめぐる地域間の対立を調整するルールの成立であった。人々は生活の中で水に親しみながら,同時に絶えず水への強迫観念を抱き続ける。水の確保は,ムラを中心とした集団によってしか実現できなかったから,ムラ人は常に集団行動を取らざるを得なかった。「農村を理解するためだけにムラを観察し,ムラを論じているわけではない。むしろ私は,日本の近現代社会の総体を理解するにあたって,ムラは一種の原像をなしていると考えているのである。したがって,単なる農村社会学的な興味からムラを眺めるのではなく,大袈裟にいえば,日本の国家体制,経済制度,文化現象のすべてにかかわるものとして,言葉をかえていえば,私自身の存在にかかわるものとして,ムラをつかまえてみたいと考えているのである。」同書のあとがきで,著者の熱い想いが綴られた述懐にはわたしも非常に共感をおぼえた。ムラを知ることは,日本社会そのものを知ることでもある。ムラの仕組み,人間関係,「ウチ」「ソト」を理解することは,そのまま日本社会の理解を深めることになる。時代とともに変わるものと変わらないものがあり,形を変えてはいるものの,よくよく見つめると本質は案外少しも変わっていない。ムラ研究の先学たちに,温故知新の想いで学ぶ必要があることを痛感している昨今である。参考文献塩見直紀と種まき大作戦編『半農半Xの種を播く』コモンズ2007年蕭紅燕「“ウチ”“ソト”の壁を超える新農人知足的な暮らしは世界平和を紡ぐ」『新しき村』11月号2015年田中淳夫『田舎で起業!』平凡社新書2004年田中淳夫『田舎で暮らす!』平凡社新書2006年