ブックタイトル高知論叢

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概要

高知論叢

被災地域における地域共生拠点と地域づくり 103な利用者一人一人のことを把握している。この活動は,資金や場所がないなかで始められている。職員は,施設長(県外出身)以外は地元採用されている。気仙沼市自体,相当の介護人材不足となっている。職場が流されたので,転出した人もいる。その結果,高齢者が取り残される形となっている。漁業や土木工事などの求人はあるが,高齢者や障害者にとってはハードルが高い。福祉の担い手づくりは,震災直後から少しずつ始められてきた。コミュニティの崩壊が,この事業の出発点となっている。孤立している人,会社以外に地域との関係をもたない人,泣きながら話す人,コミュニティが元々ない人などがいるなかで,関係づくりが進められている。【小活】高齢者,障害者,児童が普通の地域,普通の家庭で共に生きるように,地域に根ざした共生拠点で家族のような関係づくりが進められている。そのためには,支援職員が専門性を生かしつつも,高齢者介護,障害者支援,児童福祉という専門職の枠を越えた相互理解,相互支援をすることが求められる(「はぴねすぷらざ」)。各専門職がその枠を乗り越えられない限り,高齢者や障害者,児童が相互理解しながら共生する条件は整わないからである。いわば,スペシャリストの知識・技術を生かしながら,それを乗り越えるジェネラリストとしての応用能力,実践力が求められる。とりわけ,震災地域においては,コミュニティが崩壊の危機に直面したり,再生・復興が必要となっており,若い世代の転出が進み高齢化が急激に進むなかで,新たな地域の人間関係を構築しなければならない(「すろーらいふ」)。職員の確保すらままならない状況の下でも,地域の高齢者が先生役になりながら,障害者・障害児を支援する役割を果たしている。同時に,障害児・者の人間的な振る舞いや態度が,当初は硬化していた高齢者の気持ちを受容的な方向へ変化させ,差別意識を克服させている。そのような双方向の互酬性こそが共生ケアの強みと言える。