ブックタイトル高知論叢

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概要

高知論叢

被災地域における地域共生拠点と地域づくり 121B さんによれば,ラジオ体操は日に5~6名くらいの参加がある。仮設住居住まいの被災者と一般の人との間には,自宅の有無による意識の差,壁があるという。【小活】岩手県では,大槌町のように町全体が壊滅的な被災を受けていながらも,福祉避難施設「らふたあヒルズ」や共生型福祉施設「ぬくっこハウス」,「つつみ保育園」のように,社会福祉法人による懸命な救援活動と生活支援が継続されてきている。2016年3月成立の社会福祉法改正により,社会福祉法人制度改革の一環として,地域における公益的な取り組みを実施する責務が位置づけられ,社会福祉法人の地域社会への積極的な貢献が求められるようになったが,まさにその模範的な取り組みを先んじて示す好例と言える。極限状況にあるなかで,社会福祉法人が地域の中での貴重な社会資源として住民の生命と生活を支えてきている。NPO 法人においても,共生型福祉施設「ねまれや」に見られるように,地域の課題やニーズに根ざした取り組みを地道に展開することにより,地域や行政の理解を獲得し,高齢者,障害者,児童の地域共生の場づくりを定着させてきている。大船渡市においては,共生型福祉施設「居場所ハウス」「赤崎ホッとハウス」のように,被災後も,地域住民や地域外からの支援者とともに考え,住民の主体性に配慮しながら地域の中に溶け込む居場所づくりを進め,コミュニティの再生の拠点に据えようとする社会福祉法人の積極的な地域貢献活動が見出される。しかも,学生との質疑応答の中で,子どもと高齢者の間で,地域の中の家庭のように親密な関係性が生まれていることが明らかになった。平田診療所(釡石市)やサポートセンター「さんそん」(大船渡市)の取り組みは,巡視やラジオ体操などを通じて,津波による精神的な孤立化を防ぐ支援,活動として注目される。ハード面では復興住宅という安定した住まい(ハウス)ができたとしても,被災者の心の拠り所(ホーム)がそこにあるとは限らないことが示されている。むしろ,震災後の仮設住居という限界状況の中で,ラジオ体操のように,かえって,震災前にもなかったような人の紐帯が生み出され,それが復興住宅への移行後も心の拠り所として機能している。