ブックタイトル高知論叢

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概要

高知論叢

アメリカにおける非公開会社の会計基準設定プロセスが金融商品会計基準の改善に与える影響 137計基準の理解と適用の困難さという問題を解決するためであると考えられている36。また,こうした複雑性を生み出す要因は金融商品が複雑であることにあり,複雑な金融商品を多様な測定手法を用いて測定することや代替的な会計処理や例外規定が多くあることなども複雑性を増加させていると考えられている37。2008年の金融危機を契機に,FASB とIASB は金融商品会計について短期的な対応が必要となり,ディスカッション・ペーパーと異なる観点から検討を行うこととなる。しかし,ここでも複雑性の低減は,重要な検討事項とされた。2010年5 月,FASB は2008年のIASB のディスカッション・ペーパーに対する意見を踏まえて,IASB のコンバージェンス・プロジェクトの一環として公開草案「金融商品の会計とデリバティブ商品およびヘッジ活動についての会計の改訂」を公表したが,2010年公開草案についての審議の中で,IASB と同じアプローチ(分類と測定,減損,ヘッジ会計)による検討をやめることを決定した。その後のFASB の金融商品会計基準の開発において,IASB との共同プロジェクトやコンバージェンスという視点はなくなったものの,複雑性の低減についての検討は現在も続いている。こうした検討の中で,PCC による特定の取引についてヘッジ会計の複雑性を低減するという提案は,財務諸表作成者のために適用の困難さとコストを減らすことの必要性を強く表したものとなり,複雑性の本質的な問題が公正価値と結びついており,とくに公正価値測定による変動をどのように損益として認識するかという点が重視されていることを示すものとなった。また,特定の取引について例外規定を設け,その適用対象を限定したことは,将来的に複雑性を増加させる要因となるかもしれない38。おわりに非公開会社におけるヘッジ会計の複雑性の低減のために簡略化したヘッジ会計アプローチを適用するというPCC の提案は,ヘッジ会計の適用を容易にするための示唆を含み,一般目的の会計基準開発におけるヘッジ会計の複雑性の低減を考える場合に参考となるかもしれない。