ブックタイトル高知論叢

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概要

高知論叢

138 高知論叢 第113号一般目的として会計基準の開発を考える場合,すべての実体に適用可能な基準開発が必要となり,一部の財務諸表作成者や利用者の実務的な要請に応えるのではなく,社会全体の合意形成をはからねばならない。また,公正価値を用いないという例外規定を設けることは,ASU No.2014-03の決定において,適用対象から金融機関が除かれたことからもわかるように,現在のアメリカの会計慣行においては困難をともなう 。複雑性を低減するという目的を第一とするならば,例外規定を設けるという方法は,財務諸表作成者にとって裁量の余地が増えるという一方で,個々の経済的な状況においてどの基準を適用すべきかという判断の問題が生じさせることとなり,複雑性を増す要因となる。さらに,コスト問題を重視して例外規定を設けた場合,企業活動の拡大にともない例外規定を適用できなくなった時の影響を考慮して,企業活動を制限する選択が行われるかもしれない。金融商品会計の複雑性の問題は,金融商品の複雑性に起因しており,複雑な金融商品取引を財務諸表利用者に理解可能なものとして伝えるために複雑性を低減することが重要な意味を持つ。しかし,この問題は,適用される基準や規定の増加,それに伴う過大な開示要求により実務的な対応に影響を及ぼし,複雑性の低減のためには会計基準の適用の問題についても考慮する必要が生じた。この結果,金融商品会計の複雑性の低減は,財務情報利用者と作成者間の利害調整の問題となり,さらには公正価値測定による見積りが加わったことで監査可能性の問題となったのである。こうした会計環境の中で,PCC による作成者に重点をおいた提案がGAAPとして公表されたことの意味は,GAAP 対PCC 基準という対立関係としてとらえられるか,ひとつのGAAP として認められるか,例外規定を適用する企業数の推移等によって今後,明らかにされていくことになるであろう。1 FAF は,FAF 理事会と2 つの会計基準設定主体(FASB,アメリカ政府会計基準審議会(Governmental Accounting Standards Board : GASB)),FAF マネジメントチームから構成される。2 PCC は,3 年間ごとに活動についての評価を行い,その有効性を確認することとなっている。