ブックタイトル高知論叢

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概要

高知論叢

コンビニエンスストアの全国浸透と地域経済 57の大量出店を放置しておくと,オーナーの苦境や大量閉店といった社会的損失に加えて,消費者である地域住民にとっても,店舗閉鎖に伴う暮らしの安定を損なう恐れがある。利潤追求のための資本の論理と地域住民のための公共性の論理との矛盾を解消するためには,かつて高知県内でも1980年代に行われていた行政指導や,大型店出店に関わる自治体独自の条例制定等を参考にしつつ,コンビニを対象とする地域主導の出店規制・誘導策が求められる。具体的には,県や市レベルで出店に関する総量規制を含む独自の法的枠組みを設定し,同じ高知市内でも中心部のような過密エリアでの出店規制とともに,買い物弱者の多い小売店空白地域への出店誘導等を,今後は検討すべきであろう。さらに,地域経済の持続的発展に寄与する役割を,一層要求していくことも必要であろう。大手資本の中には,進出にあわせて地域貢献にも若干取り組みはじめているとはいえ,基本的には出店が拡大することによって,競争激化に伴う零細商店の廃業や消費空間の画一化,東京・県外への利益流出等をもたらしており,地域経済へのプラス効果はきわめて限定的である。しかし,コンビニの中には,かつて高知県で見られた地場コンビニの形態や,北海道のセイコーマートのような地場コンビニ・チェーンも存在している。加えて,域外に本部を置くチェーンでも,地域との産業連関を意識的に創出する取り組みは可能である。その一例として,南国市のYショップくれだ店の取り組みが挙げられる。同店は,買い物弱者の発生を防ぐために,JA 直営のAコープ閉店後に出店したが,地元のJA 南国市購買部が運営を行うだけでなく,野菜や果物等の生鮮品はJA の直販所「かざぐるま市」から調達し,肉や魚,園芸用品等も仕入れを行う等,地域の個性を生かした取り組みがされている85。こうした地域性を生かしつつ住民の暮らしを支える店舗のあり方が,1つのモデルとして挙げられよう。言い換えれば,住民世論や域内経済主体の関与と自治体の政策誘導を駆使し85 「直販所見~つけた Yショップくれだ」『高知新聞』2015年6月28日付。他にも,愛媛県のJA 愛媛たいきが, セブン- イレブンと連携し,JA の生鮮品取扱に加えて移動販売も始めるといったケースが登場している(「コンビニ拠点に移動販売」『日経MJ』2016年4月1日付)。