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概要

高知論叢

62 高知論叢 第113号Ⅱ 医療と医事法と医事刑法と刑法1 統合的医事法について本稿は「(医事)刑法」を検討対象とするものなので,先ず「医事刑法」とは何かという点から確認することとしたい。例えば,「医事刑法」の定義につき加藤久雄は,「『医事』や『医療』の関連問題や事件を刑事法的視点から整理,分析,検討,理解し,当該諸事件,諸問題の刑事法的解決を図ることを目的とし,もって患者(被害者)の権利と医療従事者の法的地位の確立(法的安定性の原則)を目指す刑事法の一領域」11と定義し,「医療従事者にとっては,行為規範であり,刑事裁判官にとっては,評価(判断)規範である」12とする。ここでの定義づけだけをみると,一見,単に刑法の一分野以上の含意はないようにも見えるが,その将来の目標とされるところは「それを統合科学としての『医事法学』(統合科学的「医事法学」)という学際的な学問領域を構築すること」13とされている。その意味で,「医事刑法」が刑法にとどまらないものとして構想されていることは明らかであるが,医療問題に対する刑法からの観点は,従前の刑法の観点にとどまるのかという点は,なお明らかでないようにも思われる。これについて,民法研究者でもある植木哲は,加藤の所説を挙げつつ,「医事法(学)は,医学・医療と法の関係を『医事刑法』の観点から分析する道具として理解されている。この分類を敷衍していけば,『医事刑法』のほか,『医事憲法』,『医事行政法』,『医事民法』,『医事社会学』等がそれぞれ存在することになろう。ここでは医事法は各法域のコネクターとしての役割をますます鮮明にしている」14との評価を与えている。これに対して植木自身は,「医事法(学)を医療制度論,医療行為論,医療倫11 加藤久雄『ポストゲノム社会における医事刑法入門〔新訂版〕』(東京法令出版,2004年)11頁以下。12 加藤・前掲注(11)12頁。13 同前。14 植木哲「医事法の方法と体系」吉村節男=野田寛編『医事法の方法と課題  植木哲先生還暦記念  』(信山社,2004年)10頁。