ブックタイトル高知論叢

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概要

高知論叢

「医療と刑事法」に関する一考察 63理論のトータルな観点から捉えることの必要性」15を強調し,本稿で次に検討するエーザーの統合的医事法を肯定的に評価しつつ,「山積する医学・医療問題の解決のために,前提となる諸事実を統合する(integral)方法論の提示はもとより重要であるが,それのみでは足りないと考える。このように医学・医療に関連する法律問題を束ねる方法は,同時に,これによって束ねられた方法がもとの医学・医療にスムーズに妥当するものでなければならない。このように統合された(integriert)医事法は現実の諸問題に整合的に妥当する必要があり,この双方向の方法が現下の法的課題に即して担保されなければならない。今日,この双方向的な,フィードバック可能な方法論の確立が,医事法(学)の研究として待望されている」16としており,統合された医事法の各法域との双方向性を指摘する点に特徴があるといえようか17。植木が参照するエーザーの見解も,「固有の統合的方法論が必要」18であることを強調する。エーザーによれば,統合的医事法が展開されるべき理由として,セクト的医事法では,「様々な専門化された法学の視点からは捉えることができなかった問題を孕んだ関係を,例えば,民事責任,刑法上の制裁可能性,社会法上の義務のいずれかが問題となるかに応じて,未成年者に対する意思の責任を『分割』するという,医療倫理的な視点からするとほとんどありえないようなそれを,法学外の領域という上位の視点から発見する機会を逸することに15 植木・前掲注(14)19頁。16 植木・前掲注(14)24頁以下。なお,ここでの「山積する医学・医療問題」については次注参照。17 植木・前掲注(14)25頁の図においては,医事法と各法領域が双方向の矢印とされている点が注目されよう。なお,学際性が必要な理由として植木・前掲注(14)24頁は今日の問題状況を以下の通り指摘している。すなわち,「医療契約論,医療過誤(責任)論,医療紛争論,医療行為論,堕胎論,救助義務論,医療資格論といった伝統的問題をとってみても,それぞれが医療技術や生命科学の進歩・発展に伴い,数々の新しい問題を抱えている。この他に,説明義務論,インフォームド・コンセント論,自己決定論,脳死論,安楽死(臨死介助)論,営業規則(許可)論,保健医療論,看護論等といった困難な問題が山積している。先端医療がもたらす諸々の問題点は,法的解決のみならず,医療倫理的解決との整合性を必要とする」。18 アルビン・エーザー著/上田健二=浅田和茂編訳『医事刑法から統合的医事法へ』(成文堂,2011年)278頁。