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概要

高知論叢

64 高知論叢 第113号もなる」19と指摘する。この点について,エーザーは以下のようにも指摘している。「セクト的に視界を狭め,遮断する場合,一定の問題設定が,文字通り2つの領域の間を(通り抜けて)落ちてしまうために,正しく選択されることさえなく,いわんや取り扱われることもない,ということも問題となるのである」20。このセクト的法学では適切に問題を把握できないという指摘は,なぜ統合的医事法でなければならないかを端的に示しているといえよう。さらにエーザーは「内側から医事法を発展」21させるためとして有効な同意の要件を例に以下のように主張する。「医学的な生活状況を出発点としつつ,患者が自己の福祉と意思を保護され,医師が民事責任と刑事責任のいずれも懸念する必要がなくなり,社会法および保険法上の利益が守られ,行政的な利益が充足され,そしてまた,様々な法領域に接するその他の医学的現象も,中心点から関係する様々な法領域へとその都度放射されることによって探求され,当該現象〔に関する判断・理解〕が  終局的には全体的なものとして本質的に  互いに調和させられるようにするために,いかなる要件が必要かを問う」22には,「領域を超越した(transdisziplinar)特殊な医学的・法学的な方法論なくしては,行うことができないのである」23。植木も指摘するように,少なくとも「今日,総合的観点から医事法を捉えることの重要性を否定する者はいないであろう」24と思われるが,本稿での関心は,統合的医事法が刑法に何をもたらすかである。統合的医事法の方法論としてエーザーが述べるような,中心点から関係する19 エーザー・前掲注(18)273頁。なお,同275頁では,「医師に期待される注意が民法と刑法のいずれから導かれるのか,そしてそれに応じて注意の厳格さが違ってくるのかは,医師にとって最終的にはまったくどうでもよいことでありうる……。すなわち,医師には明確な行動のルールが必要なのであり,それがどこに組み込まれているかは重要でないのである」との指摘もなされている。20 エーザー・前掲注(18)277頁。21 同前。22 エーザー・前掲注(18)277頁以下。23 エーザー・前掲注(18)278頁以下。24 植木・前掲注(14)24頁。