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概要

高知論叢

「医療と刑事法」に関する一考察 65様々な法領域へとその都度放射される医学的・法学的な方法と,先に言及した植木の述べる双方向性の異同が気になるところではあり,上位概念としての統合的医事法の基本原理がありうると仮定すれば,エーザーのいう放射を超えて各法領域から統合的医事法に作用するエーザーの放射と逆方向の作用を想定することが可能かとの疑問も感じるものの,この逆方向の作用が無ければそもそも統合自体がありえないともいいうるかも知れない。そうであれば,エーザーは医事刑法に何がもたらされると考えているのか。エーザーは,統合的医事法によって医事刑法が新たな問題領域の前に立たされるとし,伝統的な犯罪構成要件における新たな問題25はもちろんのこと,遺伝情報,移植医療,胚研究といった新規の構成要件の問題26のほか,臨死介助の場面において現われるような新たな死の概念のような基本的スタンスの変化27を指摘する。その上でエーザーは刑法の退却傾向として民法的手段が優先される傾向28,軽微な侵襲などを除外する刑法の自制傾向29,手続による予防線の担保とされる傾向30を指摘しつつも,他の法によって「完全に刑法が代替されることはありえない」31として,刑法の法益保護を強化する機能,医師と患者双方のための指導的機能を強調している。エーザーの所説そのものは説得的であるものの,本稿の関心からは,最終的に医事刑法にもたらされるものが強化機能と指導的機能という従来の刑法学の枠内のものである点で,なお検討課題を残したままである。医事法の基本原理があることが目指されていることは確認できるとしても,医事刑法の基本原理は検討の対象とはされていないといえようか。25 エーザー・前掲注(18)281頁以下参照。26 エーザー・前掲注(18)283頁以下参照。27 エーザー・前掲注(18)284頁参照。28 エーザー・前掲注(18)285頁以下参照。29 エーザー・前掲注(18)286頁以下参照。30 エーザー・前掲注(18)288頁以下参照。31 エーザー・前掲注(18)289頁。