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概要

高知論叢

66 高知論叢 第113号2 医事刑法の基本原理について医事刑法の基本原理以前に,そもそも医事法の基本原理がありうるかという点についても,必ずしも明らかとなってはいない。例えば,2013年11月に開催された第43回医事法学会の記録32によれば,そのランチセッションにおいてテーマとして設定されており33,そこでは「結局つまるところ『正義』しかないか」34とまとめられているが,議論においては肯定的な見解と否定的な見解が見られる。刑法学者の発言を見ても,これに肯定的であるような甲斐克則の見解35と,「医療あるいは生命倫理というものが関わるという点で特殊性があるけれども」36「医事法固有の原理があるかといわれると,ないのではないかというのが率直な印象」37との発言が見られる。それでは,医事法の基本原理の解明を試みる甲斐克則の見解はどのようなものか。医事法学会の記録によれば,①「人間の尊厳,人格保障,人権尊重」②「法に対する,法によるチェック」③「自己決定権」④「疑わしきは生命の利益に」⑤「メディカル・デュープロセス」の五つである38。甲斐の指摘するこの五つの医事法の基本原理は,医事刑法の基本的視座としても言及されている。すなわち,①根底に「人間の尊厳」という本質的問題がある上での,個人的レベルを超越したものを内包する「人格(権)の尊重」39,②謙抑性を維持した上での人権侵害を最終的にチェックするという「法によるチェック」と,医と法との対話を通じた「法に対するチェック」40,③生命について他者による処分という形は認めないとの留保の上での自己決定権とメディカル・パターナリズムの調和41 ④医療問題について判断が難しい場合の「疑わしきは生命の利益に(in32 日本医事法学会編『年報医事法学』第29号(日本評論社,2014年)12頁以下。33 鈴木利廣「医事法学のPrinciple(基本原理)について」日本医事法学会編『年報医事法学』第29号(日本評論社,2014年)67頁以下。34 鈴木・前掲注(33)75頁。35 鈴木・前掲注(33)71頁における甲斐発言。36 鈴木・前掲注(33)73頁における松宮発言。37 同前。38 鈴木・前掲注(33)71頁における甲斐発言参照。39 甲斐克則『医事刑法への旅Ⅰ』(立花書房,2004年)3 頁以下参照。40 甲斐・前掲注(39)4 頁以下参照。41 甲斐・前掲注(39)3 頁以下参照。