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概要

高知論叢

「医療と刑事法」に関する一考察 67dubio pro vita)」42,⑤「新規医療,とりわけ人体実験・臨床試験・実験的治療のようなものについては,社会的観点も加味して,適正手続による保障がなければ,当該医療行為は違法である,とする法理」43である「メディカル・デュープロセス」がそれである。本稿では,医事法の基本原理に対して,医事刑法の基本原理がありうるかということが解明すべき課題であるが,発言者の手によらない記録のため,この点についての甲斐の見解を推測することは難しい。少なくとも,医事法の基本原理が確定的に明らかには未だなっていないのに,医事刑法の基本原理を検討すること自体が困難であることも確かであろう。あるいは,統合的医事法ということからすれば,医事法の基本原理が医事刑法にも基本原理となるのであって,医事刑法の基本原理を云々する必要はないとの批判もありえようか 。しかしながら,医事刑法の議論は刑法の他の議論と異なるところがないのか否かということを明らかにするために,医事刑法の基本原理がありうるのかということを検討することは,一つの方法ではありえよう。そこで,刑法研究者である甲斐の所説を素材に,医事刑法の基本原理について他の刑事法の原理と比較検討すると,まず①の「人格(権)の尊重」という原理は,刑法一般に関わることはもちろんのこと,法学全般にも及びうることで,鈴木弁護士のいう「正義」にも通じるものであろうか。その意味で,これを単独に医事刑法の基本原理と捉えることはできまい。次に②の「法によるチェック」「法に対するチェック」であるが,後者については他の学際領域(いわゆる「新領域」)の諸問題にも共通するものであろうし,前者についても謙抑性を維持するとの前提は,他の刑法分野と異ならない。ただ,この謙抑性の働き方が,特に生命をも対象としてその健康回復のための医療ということに対して,若干異なる作用がありうるかとも思われる。③の自己決定権についても他の刑法分野及び法学一般との比較で,異なるものは考えにくいであろう。むしろ,④の「疑わしきは生命の利益に」との判断基準は,もしこの原則が42 甲斐・前掲注(39)7 頁以下参照。43 甲斐・前掲注(39)8 頁。