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概要

高知論叢

68 高知論叢 第113号妥当するのであれば,少なくとも生命に近接する医事法の原理として定位できるかも知れないし,特に医療問題において妥当するということであれば,医事刑法の原理と理解することもできるかも知れない。ただ,後の刑事判例でも指摘する通り,私見では,この基準は刑事事実認定の原則とすることは問題であるように思われる。刑事事実認定においては,「疑わしきは被告人の利益に」の原則が妥当すべきであるからである。とはいえ,医療政策決定において,複数の政策の中から一つの政策を選択する際の判断基準にはなりえようし,その意味では立法の基準として機能することも考えられない訳ではなかろう。ただし,医師の刑事責任が問われうる場面で作用するとすれば挙証責任の緩和になってしまうであろうから,事実認定なり罪責判断の基準となすべきではなかろう。なお,検討を要する課題である。なお,「疑わしきは生命の利益に」との原理が,⑤のメディカル・デュープロセスについて,手続の適正さの内容を規定するものとすることは考えてよいように思われる。生命の利益に判断しても耐えうる手続的保障を医療政策や立法等において設けることには十分な意義が認められよう。これは医事法の原理たりうる可能性もあろうし,医事刑法の原理たりうるかもしれない。ただし,医事刑法の一部ではありえても,医事刑法全体を貫く基本原理とまでいえるのかは留保が必要であろう。以上の検討によれば,やはり生命との「親密性」が医事刑法の特色であることは間違いないように思われる。それ以上の基本原理がありうるかは,この観点からさらに検討することが必要であろう。本稿では総論としてはこの点の確認にとどめ,以下ではこのような観点から若干の個別の問題を取り上げて,この問題をさらに検討することとしたい。Ⅲ 医療過誤と刑事法1 医療過誤の概念と医療事故調査制度の新設医療事故と医療過誤の概念について,医事法の分野の概念規定によれば「医療事故とは,医療によって生じた不良転帰全般をいい,こうした不良転帰のう