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概要

高知論叢

74 高知論叢 第113号わる医師が,当該場面に直面した場合に,ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じていると言える程度の,一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない」とし,その理由を臨床現場で行われている医療措置と一部の医学文献との間に齟齬がある場合に医療現場に混乱をもたらすことになるし明確性の原則が損なわれるとした上で,上記の程度に一般性や通有性を具備したものであることの証明はされておらず,検察官は「より適切な方法が他にあることを立証しなければならない」と判示している。既に甲斐克則らが指摘している通り,医療事故に関する法制度のあり方としては,「原因解明,責任の明確化,事故防止,被害者の早期救済といった視点を考慮しつつ,民事事件も含めたトータルな医療事故の適正処理の途を模索し続ける必要がある」57。このような考え方から,無謀な手術や患者情報を含む情報収集の著しい怠慢といった「重大な過失」のみに刑事責任を限定すべきとの指摘58がなされている。今回新設された事故調査制度でも,事故調査ないしセンターの調査を受けての被害者からの告訴は可能であるし,被害者救済の問題は,刑事手続と別途の対策を講じることも検討すべきであろう。現状の行政処分が刑事処分を前提になされていること自体も検討の余地がなかろうか。事故防止,さらには「医療クライシスが起こった際の生存率向上」を第一義に考えた場合に,どのように制度設計がなされるべきであろうか。正に統合的医事法の観点からの制度設計が必要な局面といえよう。Ⅳ 「終末期医療」と刑法1 安楽死,尊厳死と終末期医療「安楽死」は,「死期が差し迫っている患者の耐えがたい肉体的苦痛を緩和・除去して安らかに死を迎えさせる措置」59と定義され,①生命短縮を伴わずに苦痛を緩和・除去する場合(純粋安楽死),②死苦緩和のための麻酔薬の使用等57 甲斐克則「医療事故」法学教室第395号(2013年)27頁。58 同前。59 内藤謙『刑法講義総論(中)』(有斐閣,1986年)534頁等。