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概要

高知論叢

「医療と刑事法」に関する一考察 75の副作用により死期をいくらか早めた場合(間接的安楽死,治療型安楽死,狭義の安楽死),③生命の延長の積極的措置をとらないことが死期をいくらか早めた場合(消極的安楽死,不作為による安楽死),④生命を断つことにより死苦を免れさせる場合(積極的安楽死)の四つの類型に整理され60,③は近年,尊厳死を含む概念であることが意識されるようになり,新たな問題となっている。④の積極的安楽死については議論がある。通説は,積極的安楽死についても,違法性が阻却される場合があるとする。従前は,「人間的同情,惻隠の行為」61や「科学的合理主義に裏づけられた人道主義」62がその論拠とされていたが,その後,「自己決定権」の視点からアプローチする見解が有力化した63。他方,積極的安楽死につき,違法性は阻却されずなお違法であるとの主張も有力になされている64。期待可能性論を基軸とした責任阻却事由と解する見解65等である。たとえ本人の自己決定に基づくものであっても,それが「生存の価値なき生命の毀滅」に連なるおそれへの危惧が残るため,違法性は阻却されず,期待可能性の有無の観点から不処罰の可能性を検討する見解66も唱えられている。尊厳死(あるいは「治療行為の中止」)の問題は,人工呼吸器等の生命維持治療の発達によってもたらされた,比較的新しい問題として捉えられている67。尊厳死は,安楽死よりも微妙で解決に困難な問題を含んでいるともいわれている68が,一定の要件のもとに許容されるとする見解も多くみられる。なお,「安楽死」「尊厳死」という表現には,それ自体として肯定的評価を伴っていると60 内田博文「安楽死」『別冊ジュリスト 刑法判例百選Ⅰ総論(第三版)』46頁等。61 小野清一郎「安楽死の問題」(1950年)『刑罰の本質について・その他』(有斐閣,1955年)211頁。62 植松正「安楽死の許容限界をめぐって」『ジュリスト』269号(1963年)45頁。63 町野朔「安楽死  ひとつの視点  (2)」『ジュリスト』631号(1977年)121頁,福田雅章「安楽死」莇立明=中井美雄編『医療過誤入門』(青林書院,1979年)251頁以下等参照。64 木村亀二『刑法総論』(有斐閣,1959年)290頁以下等。65 佐伯千仭『四訂 刑法講義(総論)(オンデマンド版)』(有斐閣,2007年)291頁,内藤・前掲注(59)539頁以下等。66 中山研一『口述刑法総論』(成文堂,1978年)205頁。67 内藤・前掲注(59)544頁等。68 内藤・前掲注(59)544頁。