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概要

高知論叢

「医療と刑事法」に関する一考察 83意味では,大野病院事件無罪判決は,医師が果たすべき医療水準についてより丁寧に判断しているようにみえる。医師の刑事過失を問うのであれば,後者の作業は必須の前提ではなかろうか。2 医療と刑事裁判川崎協同病院事件については,起訴がなされ,刑事事件となったことについても,公平感を欠くこととなったように思われる。同時期に,他にも複数の治療中止に関わる案件がマスメディアで盛んに報道されたが,起訴をされたものはなかった。さらに,事件化したのが発生から3 年半経っていたことも看過できない。川崎協同病院は,本件発生直後には,この件が発生したことを認識しており,本人(本件被告人)から事情聴取まで行っているにもかかわらず,当時の院長が事件を公にすることはなかった。速やかに倫理委員会を設置して本件について審議するなり,調査委員会を立ち上げて調査を行うということはなかったという97。本件が事件化するのを受けて,内部調査委員会98および外部調査委員会99を立ち上げ調査を実施しているが,内部調査委員会においては,本件被告人,被害者家族双方の協力を得られていない。被告人を刑事責任に問うのみでは,問題の解決とはならないであろう。そして,3 年半の歳月が,事実認定の困難さをも生んだと思われる。証人らの供述があいまいであるがゆえ,97 本件発生時さらには調査委員会の調査時にも, 川崎協同病院には, 倫理委員会は置かれていなかったという。川崎協同病院における「気管チューブ抜去,薬剤投与死亡事件」についての内部調査委員会「川崎協同病院における『気管チューブ抜去,薬剤投与死亡事件』についての調査報告(2002.7.31.)」http://kawasaki-kyodo.hospi.jp/img/process/2010_02.pdf(2012年10月9日確認,現在削除)98 内部調査委員会の調査報告書として,前掲注(97)。99 外部調査委員会の調査報告書として,川崎協同病院「気管チューブ抜去,薬剤投与死亡事件」外部評価委員会「川崎協同病院における『気管チューブ抜去,薬剤投与死亡事件』に関する外部評価委員会報告書 医療の民主化と安全文化を育む組織の仕組みと運営」(2002年7 月31日)。外部評価委員会の委員は,当該病院とは全く関係のない外部の医院から構成されたという。この調査は,「『本事例』がどのような状況により発生したのかの情報収集を行い, その収集された情報の内容を検討・評価し, 病院のあるべき姿を論じ合いその結果と提言とをまとめて報告しようとするもの」とのことである。http://kawasaki-kyodo.hospi.jp/img/process/2010_01.pdf(2012年10月9 日確認,現在削除)