ブックタイトル高知論叢

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概要

高知論叢

96 高知論叢 第113号のような形で判断した。「あおぞらのわ」の紙展示は,仮設住居に帰っている子どもが作ったものである。沿岸沿いの黒いシートに覆われた除染物は,中間施設がないため,当初の3年を超えて(5年)おり,持って行き場がない。除染の段階が終わり,廃炉に向けての作業が行われているが,その作業員が,戻ってきた住民より多い。【小活】東日本地域の被災3県の中でも,福島県は原発被害の影響があり,岩手県,宮城県と比べても,避難先から帰還するのに時間がかかっている。とりわけ,楢葉町は,その深刻度が注目され,避難指示が解除された後も,視察段階では,まだ9割以上の住民が帰還できていない。しかも,戻ってきている住民の多くは高齢者であり,高齢化率が2倍程度に急上昇している。若い世代は,いわき市などで,避難先の新しい生活,仕事,教育に慣れ始めており,故郷に対する高齢世代との意識の差もあり,帰還の可能性は相対的に低い。デイサービス事業所では調理スタッフの確保が難しいために手作りの温かい食事が食べられず,診療所ではリハビリ専門職や医師,薬剤師の確保ができない状況で円滑な医療・リハビリ提供に制約が生じている。認定こども園は,仮設から本所へ移行していく場合の需要と受け入れるスタッフの確保が課題となるであろう。住居は,臨時的な仮設住居から,恒常的な公営復興住宅や民間住宅へ移行していくなかで,新たな近隣のコミュニティ再生や,高齢者の比重が高まる中での見守りや予防,専門的な医療・リハビリ・介護サービスの提供体制の確立が求められていくであろう。同時に,若い世代の復帰に向けた住環境や仕事起こしも徐々に進められていかない限り,過疎・高齢化の進んだ全国の限界集落と同じ状況に短期間で直面することになる。高齢者,障害者,子どもの共生ケアを進めることで地域コミュニティの再形成を強めていくと同時に,若い世代の復帰をも視野に入れた地域づくり,ビジョンづくりが,避難している住民も巻き込みながら,住民主体に展開されていくことが期待される。